不動産の売買契約を交わすときに、「手付金」という名目のお金を授受することがあります。この手付金ですが、様々な意味がありますが、理解していただいていますでしょうか。
手付金の最も重要な役割は、「手付解除」といって、手付金をあきらめる(売主側であれば払った手付金を返してもらえず、買主側であればもらった手付金の倍額を返還する)ことによって、理由を問わず売買契約を解除することができるという機能です。
相続した不動産を売却したり、生前対策として不動産を売却したりする場合でも、手付金の授受が行われることが一般的です。詳しくは、売買契約の仲介をまかせた不動産会社の提案する売買契約書をよく読んでみてください。
そこで今回は、手付金の基本的な知識と、手付金の相場について、不動産相続を多く取り扱う弁護士の立場からわかりやすく解説します。
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そもそも手付金とは?
手付金とは、不動産の売買契約を締結する際に、買主が売主に対して支払うお金の一種です。
一般的に、売買契約書で定められた売買代金のうち、一部を手付金として先に支払い、残りは、不動産の引渡しの際(登記名義変更に必要な書類の引渡しの際)に支払う、というやり方が実務では一般的です。
手付金に関するルールは、民法という法律にも定めのある通り、争いごとになりそうな不安、心配のある方は、法律の専門家である弁護士にご相談ください。
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区)、代表弁護士の浅野です。手付金の法律や契約に関する部分の解説を弁護士が作成しています。
一旦締結した不動産売買契約を解除することはとても大変で、大きなトラブルの発端ともなります。手付解除は、どのような理由であっても、手付金額さえあきらめれば解除することができる重要な解除手段とお考え下さい。
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手付金についての不動産売買契約書の記載は?
手付金に関する条件については、不動産売買契約書をよく読んでください。不動産売買契約書には、一般的に、手付金に関する次のような重要なポイントが書いてあります。
ポイント
- 手付金の金額
- 手付金の支払時期・支払方法
- 手付金を売買代金の一部に充当するかどうか
- 手付解除することができる期限
例えば、一般的な不動産売買契約における、手付解除に関する条項の例は、次のとおりです。
第〇条(手付金)
買主は、売主に対して、本契約の締結と同時に、手付金として金〇〇〇万円を、売主の指定する金融機関口座に振り込んで支払う(振込手数料は買主の負担とする。)。手付金は、残代金の支払の際に、売買代金の一部に充当するものとし、利息は付さないものとする。
第〇条(手付解除)
売主及び買主は、20XX年○月〇日までは、買主は手付金を放棄することにより、売主は手付金を買主に返還するとともに受領済みの手付金と同額を買主に支払うことにより、それぞれ本契約を解除することができる。
手付金についての基本的なルールは民法に定められているものの、法律違反とならない限り、契約によってルールを変更することができます。そのため、実際に不動産の売買をするときには、手付のルールがどのように決められているかを、契約書を読んで確認してください。
次に定めるとおり、民法、裁判例上は、手付解除ができるのは「履行の着手をするまで」とされていますが、不動産売買の実務では、手付解除ができる期限が契約書に示されていることが多いです。この期限を過ぎると手付解除できないため、注意してください。
手付金の役割・目的は?
手付金は、「代金の一部」を考えられていることが多いです。実際の取扱いとしてはそのように考えてもあまり問題ないですが、実際には、手付金はあくまでも代金とは別に支払われるもので、残代金を支払うときに「手付金を返して、残代金を払う」という手続きを省略しているに過ぎません。
手付金には、次の3つの役割・目的があります。中でも、「解約手付」がとても重要です。
解約手付
:売主も買主も、手付金をあきらめる(売主であれば、手付の倍額を返金する、買主であれば、支払った手付の返還をあきらめる)ことにより、契約の相手方が履行に着手するまで、売買契約を解除することができる。
違約手付
:売主、買主のいずれかに契約違反があったとき、違約金としての意味がある(売主側の蹴役違反の場合には手付金の倍額を払わなければならず、買主側の契約違反であれば手付が没収される)。
証約手付
:手付として一定のお金を支払うことで、不動産の売買契約が成立したことを証明する。
手付金は、「解約手付」としての機能が最も重要であり、通常の不動産売買契約であれば「解約手付」であることが一般的なことから、判例(最高裁昭和24年10月4日判決)では、どのような機能の手付かが契約書に記載されていなくても「解約手付」と推定することとなっています。
また、宅地建物取引業法では、売主が宅地建物取引業者の場合には、手付は必ず「解約手付」の性質を持つものとされています。
いつまで手付解除できる?
手付解除をするのに、特に理由はいりません。「契約違反」など、売主や買主に非がなくても解除できるのが、手付解除のよいところです。そのため、手付解除がいつまでもできては、売買契約がいつ解除されるかわからず、契約の相手方が不安定な立場になってしまいます。
いつまで手付解除をすることができるかというと、売主、買主のいずれか一方が契約の履行に着手するまでであるとされています。
不動産相続の場面では、特にご家庭の状況、相続財産の状況などによっては、不動産を売却処分すべきかどうか、お悩みの方も多いようです。売買契約を締結した後、悩み続けることができるのは、手付解除の期限までですので、期限をしっかり頭に入れておきましょう。
「履行の着手」とは、最高裁判例で「客観的に外部から認識できるような形で、契約の履行行為の一部をなしたこと、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をしたこと」とされています。明確な基準はないものの、相手方が契約履行の準備をしたとき、とお考え下さい。
例えば、次のようなタイミングで、履行の着手があったと判断する裁判例があります。
ポイント
- 売主が売却を前提とした分筆登記申請をした。
- 売主が、売買対象不動産を第三者から取得し、登記名義の変更をした。
- 買主が不動産売買代金を準備し、売主に引渡しの催告をした。
そして、不動産売買の場合には、不動産売買契約書に、手付解除をすることができる期限が記載されていることも少なくありません。その場合には、その期限までしか手付解除をすることができません。
手付金の相場は?
手付金の役割など基本的な知識をご理解いただいたところで、「手付金の相場はどれくらい?」という質問に回答していきます。
売主が不動産会社(宅建業者)の場合には、手付金は不動産売買代金の20%が上限であるという決まりが宅地建物取引業法に定められていますが、個人が相続した不動産を売買するのであれば、手付金の上限はありません。
手付金の相場の目安を考えるとき、手付金の役割から考えるのがよいでしょう。手付金の「解約手付」としての機能からすれば、手付金が安すぎると、簡単に契約を破棄してしまうことができてしまいます。逆に、手付金が高すぎると、結局手付解除をすることができなくなってしまいかねません。
手付金の相場観としては、おおよそ「売買代金の5%~20%」という売買契約が多いです。また、キリの良い数字で、手付金を100万円としているケースもよくみます。
手付金の相場の決め方は?
個人間で不動産売買をするときであっても、仲介業者を依頼することがよくあります。例えば、相続した不動産を知人に売却したり、相続の生前対策のために親族間で不動産を売買したりする場合であっても、トラブル防止のため、仲介業者の助けを借りることがお勧めです。
手付金額の相場を決めるときに、仲介業者となった不動産会社に、バランスのよい手付金額を決めてもらう方法があります。
というのも、さきほど解説したとおり、手付金は、安くても高くても不都合があり、売主、買主いずれにも公平な金額であったほうがよいからです。
ただし、不動産相続や、相続の生前対策などの場合には、そもそも現金が買主の手元にあまりなく、手付金の金額を少額に抑えておかなければならないという事情があるケースも少なくありません。ご事情に応じて、適切な手付金額を調整してください。
手付解約するときの注意点
最後に、解約手付の役割によって、契約解除をするときに、気を付けておいてほしい注意点について、不動産相続に強い弁護士が解説します。
損のない相続不動産の売却・生前対策のために、重要な注意点をよく理解しておいてください。
仲介手数料が発生する
不動産の売買契約を、仲介業者に仲介してもらった場合、手付解除をしても、仲介業者に仲介手数料を支払わなければならないことがあります。不動産売買契約が成約すれば、その後解約されたとしても仲介手数料が発生するのが原則だからです。
手付解約をしようかお悩みの方は、手付解約をした場合に仲介手数料を支払う必要があるか、仲介手数料がいくらになるかもあわせて不動産会社に事前確認しておいてください。
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手付解約以外の解除理由はない?
不動産を購入する人の中には、住宅ローンなど、ローンを利用して売買代金を準備する人がいます。ローンを利用するとき、銀行などの金融機関などローンを組む先の審査を受け、融資の承認を得る必要がありますが、この審査には落ちることもあります。
ローンの審査に落ちてしまったときに、ローンが通らなかったことで購入が出来なかった場合には解除をすることができる、という「ローン特約」という条項が、売買契約書に記載されていることがあります。「ローン審査に落ちたら契約は白紙」とういわけです。
この場合には、手付解約とは異なり、手付分は損しない(買主側でいえば手付金は返してもらえる)こととなっています。
契約の相手方に債務不履行がある場合には、債務不履行解除することができ、この場合にも手付解約とは異なり手付金分を損することはありません。解除を検討する理由ごとに、最も損のない解除方法を選択するようにしてください。
不動産相続は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、不動産売買の実務で、一般的によく利用されている「手付金」について、基本的な知識と、手付解約する際の注意点などを、相続に強い弁護士が解説しました。
相続問題を考えるとき、相続財産(遺産)の中に不動産(土地・建物)があるご家庭の場合には、不動産売買をしなければならないこともあります。一生に数少ない経験となる不動産売買について、損しないように「手付金」のポイントを理解してください。
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