ご両親が、不動産を所有しているとき、ご家族の状況、特に子供の入学や進学で学費など教育資金が足りない場合などには、「親の不動産を売却して、生活費の足しにしたい。」などと考える方も多いようです。
中には、両親の足腰が弱かったり、認知症にかかってしまっていたりして、「代わりに所有不動産(土地・建物)を売却してほしい。」と親から直接頼まれる方もいます。
両親がお亡くなりになりそうなとき、相続時(死亡時)まで不動産を親名義で残しておくと、遺産分割のときに相続財産が分けづらくなり、相続人間のトラブルの原因となることもあり、早めの対処が重要です。
しかし、親名義の不動産(土地・建物)を売却することは、簡単ではありません。今回は、不動産相続を多く取り扱う弁護士の立場から、生前の親名義の不動産の取扱い方法や、認知症となったときの対処法について解説します。
今回は、親の生前に、親名義の不動産を売却したいという相談に対する回答ですが、これとは別に、親の死後に、親名義の不動産を売却するためには、遺産分割と相続登記が必要となります。
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親名義の不動産を子が勝手に売却できない!
親名義の不動産の所有権は、親にあります。つまり、親自身でなければ、たとえ血のつながった家族や子であったとしても、勝手に不動産を売却することはできません。
親名義の不動産を売却するときには、親名義の次のような重要書類などが必要となります。
ポイント
- 親名義の実印と、印鑑証明書
- 親名義の写真付きの公的な身分証明書
- 親名義の住民票、戸籍謄本
この中には、住民票や戸籍謄本など、子であれば取得することができる書類もありますが、たとえ親子であっても、実印を勝手に拝借して契約書に押印することは許されません。実印の保管場所を知っていたとしても勝手に持ち出してはいけません。
親名義のまま不動産を売却する方法は?
親名義の不動産を、子が勝手に売却してはならないことを解説しました。しかし、親も売却をしてほしい、子も売却をしたいという場合に、親名義のまま、不動産を売却する方法にはどのような手段があるのでしょうか。
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代理して売却する方法
法律の専門用語でいう「代理」とは、本人に代わって、代理人が行為を行い、その代理行為の効果が本人に帰属することをいいます。「代理」を行うためには、本人から、「代理権」を得なければなりません。
例えば親がお亡くなりになりそうで、相続税の節税対策、生前対策などのために不動産を売却したい場合に、子に代理をして売却してもらうことができます。
代理の場合には、不動産売買契約書への署名押印は、代理人である子が、本人である親に代わって行うことができます。
代行して売却する方法
「代理」とは区別すべき法律の専門用語に「代行」があります。「代行」とは、「代理」とは異なり法的効果は帰属せず、あくまでも本人に代わって一定の事実行為を行うことをいいます。
例えば、両親の足腰が弱く出歩けないときに、不動産会社との交渉に出向いたり、物件の内覧の案内をしたり、必要書類の収集、立会いなどを行うのが「代行」です。
代行の場合には、不動産売買契約書に署名押印するのは、あくまでも本人である親でなければなりません。契約の場には代行をした子が立ち会うことはできますが、本人が同席し立ち会う必要があるのです。仲介業者に依頼して、契約を自宅で行ってもらうことも検討できます。
親名義から子名義に変更して、不動産を売却する方法は?
ここまで解説してきたとおり、親名義の不動産のままでは、子は勝手に売却をすることができず、親の了承を得て、「代理権」を得てはじめて、代理人として売却処分することが出来るに過ぎません。
そのため、次に、不動産を売却して現金化するための方法として、不動産の所有権者を親名義から子名義に変更して、その後に売却処分する方法があります。
名義変更をして売却する方法を選択するときの、具体的な方法と、注意点について、弁護士が解説します。
売買による名義変更後に売却する方法
まず、親名義から子名義に、不動産の所有権を移転させる方法の典型例が、「売買」です。つまり、親が子に不動産を売ることで子に所有権を移し、その後に子が、その不動産を売却処分するという方法です。
親子間で不動産を売買するときに注意していただきたいのは、相場どおりの適正な価格で売買をしたほうがよいということです。通常の取引価額を著しく下回る金額で家族間の売買を行うことは、「贈与」に等しく、贈与税を課される危険があるからです。
贈与による名義変更後に売却する方法
次に、親名義から子名義に、不動産の所有権を移転させる2つ目の方法が、「贈与」です。つまり、親が子に対して、不動産をあげることで所有権を移し、その後に子が、その不動産を売却処分するという方法です。
ただし、贈与をするときには贈与税がかかり、一般的に、贈与税は相続税より高い税率が設定されています。そのため、年間110万円という贈与税の非課税枠よりも価値の高い贈与をすると、なにも対策を練らないと、むしろ税金が多くかかってしまいます。
このように、子に「すぐにお金がほしい」という必要性に迫られた事情が場合は、「相続時精算課税制度」や「住宅資金贈与の特例」など、年間110万円の贈与税の非課税枠をこえて多くの財産移転を可能とする特例の利用を検討してください。
親が認知症のとき、親名義の不動産を売却する方法は?
親が、痴呆症、アルツハイマー、認知症、精神疾患などにかかってしまい、正常な判断力を失ってしまったとき、ここまで解説した方法は、いずれもとれません。財産についての正常な判断能力がない親には、子に代理権を与えることも、子に不動産を贈与することも、売買することもできないからです。
しかし一方で、親が認知症などで正常な判断ができなくなってしまったとき、介護施設、老人ホームへ入所させ、その際に利用しなくなった不動産を売却して、入所費用に充当したいといった希望が多くあります。
認知症などによって正常な判断能力を失ってしまったとき、親名義の不動産を売却するためには、成年後見人の選任申立てを行う必要があります。
成年後見制度とは?
成年後見制度とは、認知症、精神疾患などによって正常な判断能力を有しなくなってしまった人が有効に法律行為を行うことができるように、家庭裁判所に申立てをして「成年後見人」を選任してもらい、代わりに法律行為を行ってもらうことのできる制度のことです。
契約によって定められる任意後見制度に対して、上記の制度を法定後見制度といいます。成年後見人になった人は、本人(成年被後見人)に代わって法律行為を行うことができますが、家庭裁判所の監督のもと、本人のためになる行為しかできません。
法定後見制度を利用するとき、成年後見人に対しては、裁判所の定めた報酬を支払います。
成年後見人になれる人は?
成年後見人は、家庭裁判所が選任した人がなることができます。成年後見人の選任申立てをするときに、家庭裁判所に希望を伝えることはできますが、その通りになるとは限りません。
特に、相続問題など、家族内でトラブルが起こることが予想される場合には、成年後見人には司法書士や弁護士などの法律の専門家が選任されることがあります。その他、次の人は、成年後見人になることができません。
- 未成年者
- 家庭裁判所で解任された法定後見人、保佐人、補助人
- 破産者
- 本人に対して訴訟をしている人、その配偶者、その直系血族
- 行方の知れない人
成年後見人が適正に業務を行うよう監督する、成年後見監督人が選任される場合がありますが、上記の人のほか、成年後見人の配偶者、直系血族、兄弟姉妹は、成年後見監督人になることもできません。
成年後見制度を利用して親名義の不動産を売却する方法
成年後見制度を利用するときは、本人となる親の所在地を管轄する家庭裁判所に、成年後見制度開始の審判を申し立てることで行います。その後、裁判所から依頼された意思によって本人の意思能力が判断され、後見人が選任されると審判が確定します。
成年後見人は、「法定代理人」であり、つまり、法律で代理権を認められています。代理権を本人が与えなくても、本人を代理して行為することが認められているのです。本人の代理人として、不動産売買契約を締結することができます。
ただし、成年後見人は、本人である親のために行動するため、たとえ子が強く希望を述べたとしても、必ずしも子の希望どおりの金額、方法、タイミングで親名義の不動産を売却処分してくれるとは限りません。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、親が不動産を所有している人に向けて、「親の不動産を売却したい」という希望を叶えるための方法を、ケース別に解説しました。
たとえ子であっても、親の土地を勝手に売却処分することはできませんが、親から代理権を得たり、親から売買・贈与などで所有権を譲り受けたり、成年後見人を選任したりすることによって、親名義の不動産を売却して現金化することができます。
親の不動産を売却する方法ごとに注意しなければならないポイントには注意が必要です。「相続財産を守る会」では、不動産相続を得意とする弁護士とともに、税理士、不動産会社などが、ご家族の状況に適した、適切な不動産の処分方法をアドバイスします。