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遺産分割

配偶者の取り分が増加?2018年法改正と「持戻し免除の意思表示」

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2018年法改正で、「持戻し免除の意思表示」について、重要な改正がありました。

この「持戻し免除の意思表示」ですが、一般の方にはなじみの薄い専門用語ですので、今回の解説は、よくあるご相談内容をみながら、解説を進めていきます。

よくある相続相談

亡くなった夫が、「一緒に住んでいた自宅を私に与える」という遺言をのこしてくれていました。

自宅をもらえるのはありがたいのですが、自宅をもらってしまったために、逆に、預金や株式など、生活に必要な資金を十分にもらえませんでした・・・。

私たち夫婦は高齢なので、どちらかが先に亡くなった場合でも、のこった方が困らないように遺言をのこしておきたい。

特に大切なのは、のこされた方が今の自宅に住み続けられることと、十分な生活資金をのこしておくことの「両方」だと思っています。

私たち相続財産を守る会の弁護士には、このようなお悩みをおもちの方からのご相談が、多く寄せられています。

遺言をのこす、生前贈与をするなどの「生前対策」によって、相続トラブルは減らせますが、「持戻し」と、その「免除の意思表示」という専門知識の理解が不足していると、想定していたとおりにはならないかもしれません。

まとめ
2018年(平成30年)の相続法改正のまとめは、こちらをご覧ください。

平成30年(2018年)7月6日に、通常国会で、相続に関する法律が改正されました。 正式名称、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」という法律が成 ...

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浅野英之"]

弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区)、代表弁護士の浅野です。この記事は、私が解説を担当しています。

遺言、生前贈与などの相続対策が万全な方ほど、「持戻し免除の意思表示」が重要です。

遺言などが相続対策になるのはそのとおりですが、「持戻し」も考慮して、将来の相続の計画をたてなければなりません。
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配偶者の取り分を増やす方法がある?

2018年(平成30年)7月に、民法の中の相続に関するルールが改正されたのは御存知でしょうか。

今回は、数多くある重大な相続のありかたの変更の中でも、配偶者の遺産の取り分が増える可能性のあるルールを説明します。

民法に定められた、配偶者の相続財産(遺産)の取り分について、原則的なルールは、次のとおりです。

ポイント

亡くなった方の配偶者(夫から見た妻、妻から見た夫)や子どもなどは、相続人として、亡くなった方の遺産を受けとることができます。

相続人には、一人ひとり「法定相続分」という遺産の取り分が民法で決められ、「法定相続分」にしたがって、亡くなった方がのこした遺産を分けるのが原則です。

今回ご説明する新しいルールは、配偶者が、「法定相続分」による原則的な方法で遺産を分ける場合よりも、多くの財産をもらえるようにするためのものです。

では、くわしく説明していきます。

そもそも配偶者の「法定相続分」は?

まず、法改正による新しいルールを知る前に、原則的な方法である「法定相続分」について、念のため、解説しておきます。

「法定相続分」とは?

「法定相続分」とは、法律で定められた、それぞれの相続人に認められる遺産の取り分のことです。

たとえば・・・

たとえば、相続人が妻と子2人の場合には、妻が1/2、子がそれぞれ1/4の「法定相続分」をもつのが原則です。

遺産が1億円の場合、法定相続分どおりに遺産を分けると、配偶者は1/2の5000万円、子どもはそれぞれ1/4の2500万円ずつをもらうことができます。

【ケース別】配偶者の「法定相続分」

配偶者(つまり夫から見た妻、妻から見た夫)の法定相続分は、法律(民法)で、次のように決められています。

ポイント

配偶者だけが相続人である場合
亡くなった方に、親や子ども、兄弟がいない場合は、配偶者だけが相続人です。配偶者が、亡くなった方の財産をすべて相続するので、配偶者の「法定相続分」はすべてです。

配偶者と子どもが相続人である場合
亡くなった方に配偶者と子どもがいる場合、配偶者の「法定相続分」は1/2となり、子どもは、残った1/2を平等に分けます。

配偶者と親(亡くなった方の親)が相続人である場合
亡くなった方に子どもはいないが親がいる場合、配偶者の「法定相続分」は2/3です。親は、残った1/3を平等に分けます。

配偶者と兄弟(亡くなった方の兄弟)が相続人である場合
亡くなった方に子どもも親もいないが、兄弟がいる場合、配偶者の「法定相続分」は、3/4です。兄弟は、残った1/4を平等に分けます。

このように、相続の原則「法定相続分」では、配偶者は保護されています。

つまり、亡くなった方がのこした遺産の少なくとも1/2(半分)を受けとることができるようになっています。

もっとも、亡くなった方が生前に遺言書を作り、財産を配偶者以外の誰かにあげてしまった場合には、「遺留分(いりゅうぶん)」を保護する制度を利用しなければ、配偶者が十分な財産をもらえません。

参 考
遺留分を侵害されたとき、配偶者の取り分を守る制度は、こちらをご覧ください。

相続問題が発生し、相続人間でトラブルになると、「もらえるはずの遺産がもらえなかった・・・。」という問題が発生します。 「もらえるはずの遺産」のことを「法定相続分」といいます。「民法」という法律に定めら ...

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「持戻し」の考え方と、その問題点

ご家族のなかには、かならずしも「法定相続分」にしたがった分割方法が、適切ではない場合が多くあります。

この不都合を回避するのが、遺言、生前贈与などの、相続の「生前対策」です。ご家族がおなくなりになる前のほうが、できる対策が多くあります。

しかし、「生前対策」を、思うようにいかなくするのが、これから解説します「持戻し」という考え方です。

「持戻し計算(もちもどしけいさん)」とは?

「持戻し計算」という、専門的な考え方について、例をしめして、わかりやすく説明します。

たとえば・・・

夫が所有している自宅に、夫婦で長年一緒に住んでいました。夫は、亡くなった後の妻の生活を考えて、亡くなる前に、自宅を妻に贈与(生前贈与)しました。

自宅の価値が5000万円で、夫がのこした他の財産が1億円の預金であるとしましょう。

自宅は亡くなる前に妻に贈与しているので、亡くなった時点の夫の遺産は1億円の預金だけです。これを、相続人の間で分けます。

相続人が妻と子ども2人の場合、妻の法定相続分は1/2です。では、妻は、夫が亡くなる前にもらった5000万円の価値のある自宅に加えて、1億円の預金の1/2である5000万円を受け取れるのでしょうか?

この例でわかるとおり、生前贈与でゆずった「自宅」という財産は、本来であれば、遺産の一部でした。

この場合、妻は5000万円の預金を受け取ることができず、生前贈与された5000万円の価値を相続財産の一部とみなして分けなければならないという考え方が、「持戻し計算」です。

「持戻し」の具体的な計算方法

「持戻し計算」の考え方をご理解いただけましたでしょうか。

亡くなった方が相続人に与えたことで遺産から出て行った財産を、もう一度遺産の中に「戻して計算する」ことから、このルールを「持戻し計算(もちもどしけいさん)」と呼びます。

たとえば・・・

先ほどの例に戻りますと、「持戻し計算」のルールにより、1億円の預金に加え、5000万円の価値のある不動産も、遺産分割の対象となる遺産に含まれると考えるのです。

すると、亡くなった夫の遺産は合計1億5000万円になり、これを、妻と子ども2人で分ける計算をします。

妻の法定相続分は1/2ですから、妻が受け取れる財産は、1億5000万円の半分7500万円です。

しかし、実際には妻は、夫が亡くなる前にすでに5000万円の価値のある自宅を受け取っていました。

したがって、夫が亡くなった際に妻が追加でもらうことができる金額は、7500万円から5000万円を引いた残りの金額、つまり、2500万円しかありません。

結局、妻がもらうことができるのは、5000万円の価値のある自宅と、2500万円の預金です。合計で7500万円分ということになります。

自宅を、生前に譲り受けたことによって、相続時にもらえる金額が減少してしまいました。

「持戻し計算」の問題点

さて、さきほど解説した例について考えてみると、「ちょっとおかしいな。」、「納得いかないな。」と思う方が多いのではないでしょうか。

生前に贈与していた財産も遺産の一部であると考えて分配する、「持戻し計算」のルールがあると、遺言により、自分が亡くなった後の妻の生活を考えて自宅を与えたのに、妻の取り分は結局増えず、むしろ「裏目」です。

たとえば・・・

夫が、5000万円の価値のある自宅と、1億円の預金、合計で1億5000万円の財産をもっていました。

夫が妻に5000万円の価値のある自宅を、生前贈与しなかったら、夫が亡くなった時に、妻はいくらもらえたでしょうか?

夫は1億5000万円の財産を持っていて、妻の法定相続分は1/2ですから、妻は7500万円を受け取れます。

5000万円分の財産を妻に贈与していた場合も、妻がもらえる財産の合計は7500万円で、生活を考え5000万円の自宅をわざわざ妻にあげたのに、妻がもらえる遺産の額は、結局増えません。

それどころか、「自宅は確保したいけれど、何より当面の生活費がない。」というご家族にとっては、現金が手に入らないことで、生活に困窮するかもしれません。

しかし、これでは、亡くなった方の配偶者が高齢である場合に、その生活が十分に守られるかどうか分かりません。

そこで、2018年(平成30年)の相続法改正によって、「持戻し計算」に関する新しいルールが導入されることになりました。

次に説明する、「持戻し免除の意思表示」の推定規定です。

「持戻し免除の意思表示」とは?

「持戻し免除の意思表示」とは?

先ほどの例で、せっかく夫が妻に財産を与えたのに、結局妻の遺産の取り分が増えないのは、「持戻し計算」というルールがあるためでした。

亡くなった夫が、「持戻しをしない」という意思を事前に示しておけば、「持戻し計算」のルールは適用されません。この意思表示を、「持戻し免除の意思表示」といいます。

「持戻し免除の意思表示」があったときの分配方法

「持戻し免除の意思表示」があると、遺産の分配はどのような結果になるでしょうか?

「持戻し免除の意思表示」があると、持戻し計算、つまり、出て行った財産の金額を遺産に戻して合算する、という計算をしないで財産を分配します。

したがって、「持戻し免除の意思表示」があると、亡くなった方から財産を贈与してもらっていた相続人は、本来の「法定相続分」より多くの財産を受け取ることができます。

たとえば・・・

さきほどの例で、妻は、5000万円の価値の自宅を夫が亡くなる前にもらっており、夫の財産は、亡くなった時点で預金1億円でした。

「持戻し免除の意思表示」があれば、5000万円の自宅は遺産とは扱われません。つまり、遺産は、夫が亡くなった時点でのこった預金1億円だけです。

したがって、妻の法定相続分は1/2ですので、妻は5000万円の預金を受け取れます。

夫が亡くなる前にもらった5000万円の自宅に「加えて」、5000万円の預金を受け取れるのです。つまり、合計で1億円の財産を受け取ることができます。

持戻し計算をする場合は、妻の取り分は7500万円でしたから、「持戻し免除の意思表示」があるほうが、2500万円も多くの財産を受け取ることができます。

「持戻し免除の意思表示」を活用する方法

しかし、「持戻し免除の意思表示」があるかどうかは、基本的に、亡くなった方から財産をもらった相続人が、立証しなければなりません。

「持戻し免除の意思表示」をもって、生前に相続対策をきっちり行おうと考えている方は、その意思を、遺言書に明確に示しておきましょう

もっと詳しく!

「亡くなった方は、持戻しを免除するつもりで財産を与えていた」ことを、財産をもらった人が、証拠によって説明するのは、非常に難しいことです。

財産をくれた人はすでに亡くなっているので、本人に、「どういうつもりで財産をくれたのか」と聞くことはできません。

遺言の中に明確に書いていない限り、「持戻し免除の意思表示」を証明することは簡単ではありません。

「持戻し免除の意思表示の推定」とは?【2018年法改正対応】

ここまでの解説を、順番にわかりやすくまとめると、次のとおりです。

  • 遺言、生前贈与などの生前対策が、「持戻し計算」によって無意味になる。
  • 「持戻し免除の意思表示」をご家族がおこなっていれば「持戻し計算」は行われない。
  • しかし、「持戻し免除の意思表示」をしたかどうか、あとから証明するのは難しい。

2018年法改正で導入される制度の概要

2018年(平成30年)相続法改正の目的の1つは、亡くなった方の配偶者(特に高齢の配偶者)の生活の確保でした。

そこで、2018年に成立した改正法では、「持戻し免除の意思表示」について、次の新ルールがつくられました。これを「持戻し免除の意思表示の推定」といいます。

ポイント


婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他の一方に対して、
居住用の建物またはその敷地を遺贈または贈与した場合に、
その遺贈または贈与をした者が、「持戻し免除の意思表示」をしたものと推定する。

「推定」という専門用語をつかっていますが、わかりやすくいうと・・・

3つの条件を満たすときは、遺言書などに「持戻し計算を免除する」と書いていないくても、当時「持戻し計算を免除する」意思をもっていたのだろうと考える、ということです。

たとえば・・・

夫婦の期間が20年以上である夫が、一緒に住んでいる自宅を、自分が亡くなった場合にそなえて妻にあえたとき、遺言書を書いていなかったとします。

それでも、今回の法改正により、その自宅をもらえるだけでなく、その他の財産を相続人の間で分ける場合の取り分が、これまでよりも増える可能性が高まります。

新制度はいつから?

新制度の適用のは、2018年(平成30年)7月13日から1年以内とされています。

この施行日前にされた遺贈や贈与については、新しいルールは適用されません。施行日後にご家族がなくなったとしても、新しいルールが活用できないので、注意が必要です。

たとえば・・・

たとえば、Aさんが、2018年(平成30年)9月に、長年連れ添った妻に自宅を贈与して、2020年に亡くなったとしましょう。

Aさんが亡くなった時は既に新しいルールが始まっていますが、妻への贈与は新ルールの適用前であるため、新しい制度は活用できません。

Aさんの奥さんは、もっと後で住宅の贈与を受けていれば、もっと多くの財産をもらえたかもしれません。「贈与の時期」だけのことで、このような事態になるのは是非ともさけたいですね。

生前対策は、「相続財産を守る会」にお任せください

いかがでしたでしょうか?

2018年の法改正が施行されると、高齢の配偶者への保護が進み、「持戻し免除の意思表示の推定」によって、もらえる相続財産が増えるケースが多くなるでしょう。

しかし、この新しいルールにも、次のデメリットがあります。

  • 保護が必要であるけれども、要件を満たさないと制度を利用できない(夫婦である期間が19年間だったなど)。
  • 「推定」を覆す事情が証明されると、相続人間での争いがつづく。
  • 新しいルールの適用前に行われた生前対策には利用できない。

したがって、今後も、争いを避け、相続になったとき計画的に財産を引き継ぐためには、やはり遺言生前贈与などを活用した生前対策が欠かせません。

ぜひとも私たち相続財産を守る会の専門家に相談していただき、十分な対策をとってください。

ご相談の予約はこちら

まとめ

相続相談のうち、特に、お亡くなりになった後のご家族の生活についての心配ごと、お悩みごとは、生前対策を十分におこなうことで解決できる場合が多くあります。

もっとも、すべての方が、きちんとした対策を練っているわけではないでしょう。

たとえ遺言をのこした場合でも、専門家に相談せずに作成した場合には、遺言をのこした方が想定していたとおりに遺産を分けられない可能性もあります。

あなたの大切な相続財産を守るためには、ぜひ専門家に相談してください。

  • 法律が決めたルールにしたがって遺産を分けた場合にはどのようになるのか?
  • どのような相続対策をとることができるのか?

といったご相談に、相続財産を守る会の専門家たちが、親身になってアドバイスをさしあげます。

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弁護士法人浅野総合法律事務所

弁護士法人浅野総合法律事務所は、銀座(東京都中央区)にて、相続問題、特に、遺言・節税などの生前対策、相続トラブルの交渉などを強みとして取り扱う法律事務所です。 同オフィス内に、税理士法人浅野総合会計事務所を併設し、相続のご相談について、ワンストップのサービスを提供しております。

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