ご家族がお亡くなりになった際に、公正証書遺言、自筆証書遺言などの遺言が残っていたけれども、残された相続人である子どもたちの希望とは全く異なる内容であった、という場合があります。
このようなケースで、相続人同士で、遺言書とは異なった遺産分割を行うことができるのでしょうか。また、遺言書と異なる遺産分割を行ったとき、相続税や贈与税など、税金の金額に変化があるのでしょうか。
今回は、遺言書と異なる遺産分割を行いたい方に向けて、その方法と、税金(相続税・贈与税)への影響について、相続税に強い税理士が解説します。
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そもそも遺言書と異なる遺産分割ができる?
お亡くなりになったご家族(被相続人)が遺言を残していた場合であっても、その遺言が、相続人の希望通りのものとは限りません。遺言書の内容について全く相談されていない場合はもちろんのこと、相続人も知らない遺言が発見されることもあります。
遺言を残すことは、お亡くなりになった方の遺志を反映するための方法ですが、しかしながら、お亡くなりになった方が遺言作成にあまり詳しくなかったり、専門家に相談せずに作成していたりした場合、「その遺言よりももっと良い節税方法があるのに・・・」という場合があります。
遺言の内容が節税にならない場合はもちろん、遺言の内容どおりだと争いの元となることが予想されるといった場合にも、遺言書とは異なった遺産分割をすることを検討してください。
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特定遺贈の場合
「特定遺贈」とは、分配する財産を指定して相続する人を決める内容の遺言のことをいいます。
残された遺言が「特定遺贈」であったとき、受遺者(遺贈を受ける人)全員が遺贈を放棄すれば、遺言者の死亡のときにさかのぼって遺言の効力が失われて、遺贈を受ける人が1人もいない状態となります。
したがって、この場合には、遺言と異なる内容の遺産分割協議をすることができます。つまり、「特定遺贈」を内容とする遺言の場合には、相続人全員が合意をすれば、その遺言と異なる内容の遺産分割をすることができるということです。
包括遺贈の場合
これに対して、遺言に記載された遺贈が「包括遺贈」の場合にはどうでしょうか。「包括遺贈」とは、「特定遺贈」とは異なり、財産を特定することなく、その割合のみで遺産分割を定めた内容の遺言のことです。
「包括遺贈」の場合には、相続放棄についての民法の規定が適用されることから、遺言と異なる内容の遺産分割協議をするためには、相続放棄の手続を踏む必要があります。
相続放棄は、はじめから相続人ではなくなるために家庭裁判所に申述をする手続のことをいい、相続開始を知った日から3か月以内に行わなければなりません。遺言にしたがいたくないときには、期限に注意が必要です。
遺言書と異なる遺産分割ができないケースとは?
ここまでの解説からご理解いただけるとおり、遺言の内容が「特定遺贈」、「包括遺贈」のいずれであっても、受遺者(遺贈を受けた人)全員が遺贈を放棄しなければ、遺言と異なる遺産分割を行うことはできません。
そのため、受遺者の中に、遺言と異なる遺産分割協議を行うことに一部反対する人がいたとしても、遺言書と異なる遺産分割をすることができないケースになります。
加えて、遺言者(遺言をのこした人)が、遺言書の中で「遺言と異なる遺産分割は禁止する」と明記していた場合にも、遺言と異なる遺産分割協議を行うことはできません。したがって、遺言の文言に注意が必要です。
遺言書と異なる遺産分割をした場合の税金は?
遺言による贈与を受けた人たちの間の話し合いによって、遺言書と異なる遺産分割をした場合であっても、税務上の取扱いは大きくは変わりません。
というのも、相続人全員の同意のもとで遺言書と異なる遺産分割協議を行った場合には、税務上の取扱いは、「一旦遺言により帰属した相続財産(遺産)を贈与したり、交換したりする」とは考えず、単に相続したものと考えるからです。
したがって、遺言書と異なる遺産分割協議をして相続したとしても、単に遺言がなく遺産分割協議をした場合と同様に、相続税を計算して、申告・納付します。
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以上のとおり、遺言書と異なる遺産分割をしたいと考えたときであっても、受遺者全員の合意がとれれば問題なく可能であり、かつ、その場合の相続税についても特段増額されることもありません。
ただし、遺言による贈与を受けた人の中に、相続人ではない人がいた場合には、注意が必要です。というのも、相続人ではない人は、遺産分割協議に加わることができないからです。
遺言による贈与を受けた人の中に、相続人ではない人がいた場合であっても、その人もまた「遺言と異なる遺産分割」に同意をしなければなりません。そのため、遺産分割協議に加われないにしても、なにかしらの相続財産(遺産)を分け与えなければならないこともあります。
このようなケースで、例えば遺言による贈与で「不動産」を与えられていた人に対して、遺言とは異なる遺産分割協議で「預貯金」を与えるには、遺産分割協議に参加させる以外の方法で実現しなければなりません。
そのための方法として、「一旦、相続人が財産を相続し、相続人でない受遺者に贈与する」という方法がとられることがあり、このような場合には、相続税とは別に、贈与税がかかり、結果として「遺言とは異なる遺産分割協議」を実現することによって、より多くの税負担がかかることがあります。
したがって、よほどの理由がない限り、相続人ではない受遺者については、遺言で指定された相続財産(遺産)を取得することが、節税対策の観点からおすすめです。
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今回は、相続人の希望とは異なる遺言書が残っていた場合に、遺言書とは異なる遺産分割協議を行うことが、相続税・贈与税などの税金にどのように影響するのかについて、税理士が解説しました。
遺言と異なる遺産分割を行うことは、相続人全員の同意があれば可能ではあるものの、そのことによって税負担が増額することは望ましくありません。特に、相続人ではない受遺者がいるときには注意が必要です。
「相続財産を守る会」では、相続税の節税対策もあわせた検討ができるよう、遺言書の作成をする際に、税理士の意見を聞きながら、アドバイスを受けることができます。ぜひ一度ご相談ください。