「事業承継」ということばをご存知でしょうか。現在継続している会社の事業を、この先も長く続けていくためには「世代交代」が避けては通れません。
しかし、少子高齢化社会の進展や職業の増加によって、現在社長として会社を引っ張っている人の年齢が高齢化していく一方で、その事業を継いで後継者になろうと考える子どもは減る一方です。
今回は、老舗企業のサポートを中心に、老舗企業の経営サポートと後継者育成、後継者紹介などを行うメディア「漕手-koghite-」編集長で、ご自身も老舗企業の後継者として事業承継の当事者でもある、鈴木彰氏にお話を伺いました。
老舗応援メディア「漕手 – koghite – 」
編集長 鈴木 彰
1892年創業の鰹節メーカーの長男として生まれる。日本のブランドの一つである「老舗」を守るため、伸び悩んでいる老舗企業のリノベーションをして、プラス100年続く企業へと進化させる支援を行う。
[toc]
老舗サポートをメディア化する理由は?
――「事業承継と相続」の問題は多岐にわたり、解決方法は多様かと思います。鈴木様が「漕手 – koghite -」をメディアとして運用するに至った理由は、どのようなものですか?
鈴木(以下、敬称略):確かに、事業承継には様々な方法があります。家族内で代々承継していく会社から、M&A(事業買収)によって他社の手にわたる会社もあります。
しかしながら”手段”としては把握していても、現経営者や後継者が事業承継する前後の”リアル”についてはあまり表に出回ることがありません。
それが原因で非常にハードルが高いというイメージのみがいたずらに出回っていることが、後継者不在の一因となっていると考えております。
私達は「やりがい」や「苦悩」を含めた”リアル”をメディアに集めることで、事業承継に挑戦したいという方を増やしたいと考えております。
――事業承継の中でも、ご自身のご経験を踏まえ、「老舗企業」のサポートを重点的に行っていくというわけですね。
鈴木:その通りです。中でも私達がサポートしたいのは「老舗企業」の事業承継です。「老舗企業」には多くのノウハウがつまっており、事業が消滅してしまうには惜しい存在です。
数十年から100年も続く老舗企業が、この先さらに数十年から100年存続するためにどうしたらよいか、ノウハウを収集し、紹介したいと考え、「漕手 – koghite -」というメディアをはじめました。
――なるほどですね。老舗企業を支援するために、「漕手 – koghite -」にはどのような情報を掲載する予定ですか?
鈴木:老舗企業を継続させるためには、現在の経営を円滑に進める方法、成功させる方法はもちろんのこと、事業承継のためのノウハウについても、専門家の助けを借りながら解説を掲載していきます。
また、前述した現経営者や後継者の”リアル”という意味では、実際に当事者の方々にインタビューを行って参ります。
実家は127年続く鰹節会社
ーーご実家が老舗企業とお聞きしましたが、実家の事業内容や経営状況について教えて頂けますでしょうか。
鈴木:私の実家は、大阪で鰹節事業を営んでいる「ヤマキウ株式会社」(https://yamakiu.com)という会社です。
現在は、私の父を筆頭に、親族を含む数名で事業を営んでおります。
現在127年の歴史があり、ノウハウや人脈も十分な蓄積があると自負しています。例えば、鰹節を削る工場の多くは自動化が進んでいますが、カンナを削る角度1つをとってみても、ノウハウの神髄です。
また、大阪商人について描いた小説である、著庄野潤三「水の都」(1978, 河出書房新社)の舞台としても登場しました。
――ご実家の抱える事業承継についての問題点などを、差支えない範囲でご紹介いただけますでしょうか。
鈴木:さきほど申しました代表、社員、いずれも、現在60間近です。この先さらに数十年、100年を超えて事業を継続していくためには、事業承継が必須です。
この現状を打破するため、私が実家の事業を継承し、8代目社長として会社に活力を加える新たな動きを推進する予定でいます。
――ご実家のように、百年を超える歴史を持つような老舗企業は多くあるのでしょうか。老舗企業の現状について、どのようにお考えですか?
鈴木:日本は、世界的に見ても、圧倒的に老舗企業の割合が多いといわれています。「長く続く、古い企業が多い」という点は、日本のブランドイメージを確立しています。
しかし一方で、さまざまな理由で倒産・廃業したり、事業継続できなくなってしまったりする老舗企業も、毎年多く出現しています。特に、この先5年、10年のうちに、老舗企業の代表者の高齢化が進み、消滅してしまう会社が増えるのではないかと予想されています。
――老舗企業が生き残っていくためには、どのような活動が必要でしょうか。
鈴木:まず事業承継は必須です。特に、後継者探しが必要です。私達は、後継者になりたい人を探し、教育し、老舗企業につなぐハブになりたいと考えています。
その上で、長年続く老舗企業といえども、これまでと同じことをずっと繰り返しているだけでは、いずれ競争相手に駆逐されてしまうかもしれません。時代に合わせた新しい事業を取り入れ、進化することで、老舗企業の良さがより生きるのではないかと思います。「温故知新」の心意気が重要です。
――それは、鈴木様ご自身の、ご実家の事業承継についても、策がおありということでしょうか?
鈴木:鰹節産業についてまとめた著宮下章「鰹節」(1989, (社)日本鰹節協会)にも記載がありますが、弊社は国から特別に認められた「問屋仲買兼業」として発展してまいりました。
当時、流通の要である問屋と仲買を両方とも操業できていたことは、非常に大きな武器となっていました。
しかしながら、規制が無くなり物流も発達したことによって、その強みは今となってはかなり失われつつあると考えております。
また現在は加工も行っておりますが、”産地直送”などが実現する昨今、その強みも次第に薄れていくのではないかと危機感を抱いております。
私のような次世代を担う若手が新しい活力を与えることによって、新たな価値を消費者に提供できるよう、目下計画中です。
老舗企業の後継者探しを、メディアで支援
――今後、「漕手 – koghite -」では、老舗企業の支援をしていきたいとのことでしたが、具体的にはどのようなご内容でしょうか?
鈴木:まずはじめに、老舗企業の喫緊の課題となっている「後継者探し」のサポートをする予定です。
親戚間のいざこざが面倒であるなど、様々な理由で、事業承継には感情的、心理的な高いハードルがあります。ご家族の中で後継者が見つからないときに、老舗企業で働くことを希望する若い人材をマッチングすることが、当メディアの目的の1つです。
そのために、実際の老舗企業の事業承継の例などをインタビューし、老舗企業の後継者となることの魅力や、事業承継の方法などについて、わかりやすく伝えていきます。要は、成功/失敗事例とノウハウのデータベース化を目指します。
――「相続財産を守る会」では、事業承継にお悩みの会社に向けて、弁護士、税理士、司法書士などの専門士業がパートナーを組み、主に法務、税務の面において支援をさせていただいています。ご家族内の承継ではなく、後継者を外部に求める会社があれば、マッチングできるかもしれませんね。
鈴木:そうですね。弁護士の方の事業承継のサポートは非常に重要ですが、士業の方の手の届かない裾野のサポートを、私達は担っていきたいです。
「老舗企業ではたらきたい」「事業承継をして後継者になりたい」という人を増やすことで、老舗企業は活性化していきます。若者に限らず、企業で経験を積んだ方も含め、日本の伝統を継いでいただく為のサポートを行ってまいります。
――最後に、老舗企業の事業承継や、「漕手 – koghite -」に興味を持っていただきたい方に向けて、一言メッセージをお願いします。
鈴木:「老舗=伝統」のイメージとは裏腹に“古い会社”に留まっている会社が多く存在します。
新たな風を吹き込むことは容易いことではありませんが、今後事例が増えていくことで障壁は限りなく低くなっていくと考えております。是非あなたも「老舗」の担い手として、日本のブランドを支えていきましょう。