相続が発生したとき、お亡くなりになった方(被相続人)に多額の借金があった場合、相続放棄を検討することとなります。しかし、「過払い金」という言葉を、テレビCMや広告などで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
「過払い金」は、法律で決められた利息以上の利息がついた借金を返し続けていた場合に、「借金の返しすぎ」状態になっており、借金が帳消しになるどころか、一定の金額を返却してもらえる権利のことをいいます。
過払い金がある場合、相続放棄を選択することは早計な場合があります。相続財産と過払い金を相続して、相続財産をプラスにすることも可能なことがあるからです。
そこで今回は、お亡くなりになった方(被相続人)に借金が存在する場合の、過払い金返還請求権の相続について、相続に強い弁護士が解説します。
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相続放棄前に「過払い金」を調査する!
相続が発生したとき、借金が多額で、相続財産を上回ってしまっているような場合、相続(単純承認)をすると、相続したことによってむしろ損をしてしまいます。この場合に選択されるのが「相続放棄」です。
相続放棄をすると、相続財産も相続債務も相続しなくなるため、お亡くなりになった方(被相続人)の借金を引き継がないことになるからです。
しかし、被相続人の借金に「過払い金」がある場合、借金がゼロになるどころか、むしろお金が返ってくることがあります。多くの相続人は、借金の金額におびえ、相続放棄を検討するかもしれませんが、過払い金が発生しないかどうか、事前にチェックしてください。
クレジットカード会社やサラリーマン金融(消費者金融)など、いわゆる「クレサラ会社」の中には、相続と同時に相続放棄を勧めてくる会社もありますが、相続放棄してしまうと、過払い金を取り戻すことはできません。
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過払い金の返還請求権の相続とは?
過払い金の返還請求権とは、借金を返しすぎて、余計に支払っていた利息について、返還を請求する権利のことです。
お金の貸し借りの際の利息は「利息制限法」という法律によって、上限が決められています。しかし、「利息制限法」以上の金利上限を定める「出資法」が存在したことで「グレーゾーン金利」で貸していた消費者金融などがいたため、取られすぎた利息の返還が可能なのです。
債務額 | 利息制限法の上限金利 | 出資法の上限金利 |
---|---|---|
10万円未満 | 年20% | 年29.2% |
10万円以上100万円未満 | 年18% | 年29.2% |
100万円以上 | 年15% | 年29.2% |
過払い金の返還請求権は、その権利自体が財産的価値を有しています。そして、権利もまた当然、相続の対象となりますから、お亡くなりになった方(被相続人)が過払い金返還請求権を有していた場合には、相続人はこの権利を相続できます。
過払金返還請求権の消滅時効は、取引終了時点から起算して10年間です。したがって、過払い金を相続した可能性があるときは、大至急時効中断措置をとる必要があります。
相続した過払い金返還請求権を行使する方法は?
相続した借金があるとき、過払い金返還請求権が存在するかどうかや、その金額を知るためには、消費者金融などに対して、取引履歴の照会をして調査する必要があります。まずは、被相続人の遺品整理などを行う際に、次の資料・情報などを収集します。
ポイント
消費者金融などの契約書、キャッシュカード、ローンカード等
預金通帳からの返済・引落の履歴
信用情報機関(CIC、JICC、全国銀行個人信用情報センター)の信用情報
相続した借金の場合には、次の資料を収集し、相続人であることを消費者金融などに対して証明する必要があることが一般的です。
ポイント
お亡くなりになった方(被相続人)の除籍謄本
請求者が相続人であることのわかる資料(戸籍謄本など)
請求者の身分証明書(免許証など)
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その上で、取引履歴の開示を得たら、過払い金が発生しているかどうかの計算を行います。以前に支払った金利を、適法な金利にして再計算する方法を「引き直し計算」といいます。
実際に過払い金返還請求を相続人が行う方法には、次の通り、いくつかの方法があります。
- 各相続人が、法定相続分に応じて各自請求する方法
- 1人の相続人が、他の相続人から債権譲渡を受け、1人だけが請求する方法
- 1人の相続人が、遺産分割協議で過払金返還請求権を相続し、1人だけが請求する方法
- 他の相続人が相続放棄をし、残された相続人が請求する方法
- 遺言書に基づいて相続した相続人が請求する方法
いずれの方法で権利行使する場合であっても、それぞれ、遺産分割協議書、遺言書、相続放棄受理証明書など、各手続によって過払い金返還請求権を相続したことを証明する書類が必要となります。
過払い金を相続したときの4つの注意点
お亡くなりになったご家族が借金をしていたときであっても、過払い金返還請求権を相続することによって、借金がなくなったり、お金が返って来たりする可能性があることをご理解いただいたところで、最後に、過払い金を相続した時の注意点について、弁護士が解説します。
過払い金をはじめ、債務整理を取り扱う弁護士、司法書士は多く存在しますが、相続に強い弁護士であれば、相続人が請求する場合の注意点、ポイントを熟知しています。
相続放棄すると、過払い金の返還請求ができない
相続の対象となり、被相続人の死亡後であっても行使することができる過払い金返還請求権ですが、相続放棄をした後では行使することができません。
相続放棄は、相続開始のときにさかのぼって、最初から相続人ではなかったことになるため、当然ながら、過払い金を請求する権利を相続人が得ることもできなくなってしまうからです。
法定金利内に引き直し計算を行い、過払い金を計算した上でもなお債務(借金・ローン等)が相続財産を上回る場合にはじめて、相続放棄を決断すべきです。相続放棄は、相続開始を知った時から3か月以内に行う必要があるため、債務調査を大至急進めてください。
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過払い金が高額になる可能性あり
借金を相続したケースで、お亡くなりになった方(被相続人)が、昔に借りたお金をずっと返し続けていた場合には、取引期間が長くなればなるほど、返還請求できる過払い金の金額が多額になりがちです。
被相続人がご高齢の場合、違法に高額な金利に文句もいわず、長年にわたってまじめに返済を続けていた可能性があります。数百万円単位で返金がある解決例もあります。
過払い金請求を得意とする士業の中には、司法書士もいますが、司法書士は、過払い金額が「140万円」を超えるものは取り扱うことができません。これに対し、弁護士であれば、金額の上限なく、過払い金返還請求を行うことができます。
また、既に発生している過払い金に対しても、年5%の利息がつくため、過払い金の元本だけでなく、その利息もまた高額になっている可能性があります。
推定計算など、争点が多岐にわたりがち
過払い金返還請求は、単に請求すればよいというものではなく、適切な請求をするためには、消費者金融などから取引明細を取り寄せ、請求すべき妥当な過払い金額を計算する必要があります。
返済期間が長くなればなるほど、取引履歴が保存されていない期間の利益を推定して計算しなければならない「推定計算」の問題など、多くの論点が生まれます。
その他、中断期間、貸金業者の合併、債務弁済承認など、これらの論点はいずれも、法律的な知識が必要となるため、弁護士のサポートが有益です。
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債権放棄には応じない
「相続放棄」と似た言葉に「債権放棄」があります。「債権放棄」は、消費者金融やクレジットカード会社が、ご家族がお亡くなりになると提案してくることのある手続です。「債権放棄書」などの書面に署名押印をすることで、借金を帳消しにすることをいいます。
「借金を帳消しにする」というと、借金をしていたご家族やその相続人にとって有利に聞こえますが、過払い金返還請求権も一緒に放棄してしまうと、本来返金してもらえたはずのお金まで得られなくなります。
消費者金融などが、借金をした人やその相続人にとって有利なことを提案してくれるはずはないと疑いの心を持ち、しっかりと債務の調査、過払い金の調査をしてください。
相続問題は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、相続問題において、相続放棄をするかどうかを判断する際に重要となる、過払い金返還請求権について、「相続財産を守る会」の弁護士が解説しました。
過払い金が返還請求できることに気づかず、借金が多額であるということから相続放棄を安易に決断すると、相続財産も得られなくなってしまい、思わぬ損をしてしまうおそれがあるため、注意が必要です。