遺言書を作成しておくことで、未然に防げる相続トラブルは多くあります。遺言を作成するのに、早すぎるということはありません。
遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種がありますが、今回は、最も簡単に作成でき、自分ひとりで作成できる「自筆証書遺言」を作成する方法と注意点を、相続に強い弁護士が解説します。
よくある相続相談
- 自分で遺言書を作成する方法を、手順に応じて知りたい。
- 自分で遺言書を作成しても無効にならないための注意点を知りたい。
遺言がない場合には、相続は法律のルールどおりに行われ、相続財産は、民法に定められた法定相続分にしたがって分割されます。
法律のルールと異なる分割方法を指定するための、遺言書の作成方法と注意点について、相続に強い弁護士が、わかりやすく解説します。
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「自筆証書遺言とはどのようなものか」について、詳しい解説はこちらをご覧ください。
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相続財産を守る会を運営する、弁護士法人浅野総合法律事務所では、相続問題と遺言作成に注力しています。
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野です。
遺言の残し方には、大きく分けて、公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3つがあります。
公証役場や弁護士の協力などが不要で、最も簡単に作成できるのが自筆証書遺言のメリットですが、自分ひとりで遺言を作成するときには、注意点が多くあります。
自分で遺言を作成するとき、作成方法にミスがあると、遺産分割協議のときに無効な遺言となってしまうおそれもあるからです。
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遺言書の紙を用意する
まず、遺言書を作成するときには、遺言を記載する紙を用意してください。自分で遺言を作成するとき、どのような紙を使うかについては、制限はありません。
便せんでも、コピー用紙、ルーズリーフ、ノートでも、どのような用紙であっても、有効に自分で遺言を作成することができます。書店に「遺言書作成キット」も用意されていますので、活用してみてもよいでしょう。
遺言書は、早めに作成しておいた方が有益なため、長期間保存、保管しておくことが予定されます。したがって、遺言書の用紙は、長期間保存しても破損、変形、変性してしまわないものを選びます。
自分で遺言を作成するときは、本文をすべて自筆で書かなければなりませんので、パソコン、ワープロで印字した遺言を用意することはできません。
筆記具を用意する
自分で遺言を作成するときは、筆記具に制限はありません。万年筆、ペン、鉛筆など、どのような筆記具であっても、有効に自分で遺言を作成することができます。
ただし、「消えるペン(フリクションボールペン)」や鉛筆、シャープペンシルなど、誤って遺言が消えてしまったり、時間の経過によって遺言が読みにくくなってしまったりするおそれのある筆記具は避けるのがよいでしょう。
遺言を自筆で記載する
自分で遺言を作成するとき、自筆証書遺言として有効になるためには、遺言の全文を自筆で記載することが必要です。
パソコンで打ち込むことはできませんし、他人に代筆してもらうことも不可能です。自筆で書かなければならない部分は署名だけではなく、遺言の全文を自筆で書かなければなりませ。
身体が不自由であったり、手を怪我していたりといった理由で、遺言の全文を自筆で書くことが不可能な方は、公正証書遺言など、その他の形式の遺言を検討してください。
作成日付を記載する
自分で遺言を作成するとき、自筆証書遺言として有効な遺言とするためには、作成日付を記載しておかなければなりません。作成日付もまた、自筆で書くことが必要で、ゴム印で日付を印字してはいけません。
遺言に書いた作成日付は、複数の遺言があるときの優先順位などにも影響しますので、いつの日付かが確定的にわかる必要があります。
例えば、「〇〇年〇月吉日」といった記載は、いつの日付かが確定的にわからないため、裁判例でも、自筆証書遺言として無効となる、と判断されてしまった例があり、注意が必要です。
署名をする
遺言書を、有効に作成するためには、署名を自筆で書いておく必要があります。自分で作成する遺言に記載する署名は、自分の名前で、1つの遺言書につき1人分であることが必要です。
ペンネーム、源氏名、あだ名などであっても、誰の遺言の意思表示がされているかが明らかであれば、遺言書として有効となる可能性もありますが、本名をフルネームで書いておくのが一番です。
夫婦であっても、2人以上の人が共同で遺言を残すことはできません。財産が混同し、どちらの財産であるかが不明確な場合であっても、夫婦それぞれが、単独で遺言を残す必要があります。
印鑑を押す
遺言書に押印がなければ、自筆証書遺言として無効となってしまいます。押印する印鑑の種類には特に制限はなく、実印でなくとも、認印、三文判でも問題ありません。
印鑑証明書を添付することも必須ではありません。シャチハタは、偽造、変造が容易であるため、遺言書に押す印鑑としては適切ではありません。
相続財産を特定する
遺言によって、相続財産の分割についての指定をするときは、「どの財産」を、「誰に」相続させるのかを明確にしておかなければ、遺産分割協議のときの争いの元となります。
相続財産が、どこにあるどのような財産か、について、遺言を残した人が死亡した後に明確に特定することができなければ、せっかく遺言を残した意味がなくなってしまいます。
ポイント
- 相続財産が、不動産の場合
:不動産登記簿謄本を参考に、不動産(土地・建物)を特定するための情報を全て記載します。 - 相続財産が、動産の場合
:保管場所、品名、種類などを詳細に記載して、相続財産を特定します。 - 相続財産が、預貯金の場合
:金融機関名、支店名、口座の種類、口座番号、名義人を全て記載することで特定します。
相続財産を特定するためには、相続財産目録を作成することが簡便です。相続財産目録もまた、自筆で記載しなければなりませんでしたが、2018年民法改正によって、相続財産目録をパソコンで作成することができるようになります。
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2018年相続法改正で変わる自筆証書遺言の新しい要件は、詳しくはこちらをご覧ください。
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付言事項を記載する
遺言に記載される付言事項とは、遺言に必須の内容ではないものの、生前の遺言者の意思を尊重するために記載されるお気持ちのことをいいます。
自分で遺言を作成する場合に、付言事項を書かなくても遺言が無効となることはありません。
しかし、次のような場合には、遺産分割協議において争いが激化しないためには、適切な付言事項を記載して、遺言を残した理由、心境を明らかにしておくことが非常に重要となるケースがあります。
ポイント
特別受益を主張する相続人がいる可能性がある場合
寄与分を主張する相続人がいる可能性がある場合
遺言によって相続人を相続廃除する場合
相続人の遺留分を侵害する内容の遺言を残す場合
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「寄与分」が認められる場合と計算方法について、詳しくはこちらをご覧ください。
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遺言書を修正する
自分で作成した遺言書は、作成中であっても、完成後であっても、自分で変更することはいつでも可能です。
自分で作成した遺言書を修正、変更したいときは、修正、変更箇所を二重線で削除し、加除訂正した文字数を記載して押印します。変更方法が不適切で、変更が無効となってしまう場合であっても、変更前の遺言が有効となります。
軽微な修正、変更ではなく、遺言書を大幅に修正、変更したい場合には、再度遺言書を作成しなおすことにより、作成日付が後の遺言書を優先させることができます。
遺言書の作成後、大きな変更、修正が必要なケースとして、死亡などによって相続人が増減したり、相続財産の状況が大きく変わったりする場合があります。
遺言執行者を指定する
遺言を自分で作成するときには、遺言執行者を指定し、遺言書に記載しておくことがお勧めです。遺言執行者を決めることは、遺言の必須の要件ではありませんが、死後の相続トラブルを回避するために重要となります。
遺言執行者とは、作成した遺言の内容を、確実に実現してくれる役割を持つ人のことをいいます。遺言執行者は、親族、血縁である必要はなく、相続の専門家である弁護士を指定することも少なくありません。
相続に関する法律・裁判例の知識の豊富な弁護士を遺言執行者にすることによって、遺言にしたがった相続財産の分割を、確実に履行してもらうことができます。
遺言書を保管する
以上の流れにしたがえば、遺言書を自分で作成し、自筆証書遺言として有効な遺言を作成することができます。そして、完成した遺言書は、失くしたり、破損してしまったりしないよう、大切に保管してください。
遺言書を、封筒に入れて押印をすることは、自筆証書遺言の場合には必須ではありませんが、相続人による改ざんなどを防ぐためにも、念のため封印しておくことがお勧めです。
大切に保管しすぎて、死後に相続人に見つけてもらえなかった、という事態を防ぐためにも、確実に遺族に見つけてもらえる貸金庫の中に保管したり、相続人に遺言の存在を伝えるようにします。
相続問題は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか。
今回は、自筆証書遺言を作成するとき、自分ひとりでも遺言が作成できるように、遺言の作成方法について、順を追って相続に強い弁護士が解説しました。
自筆証書遺言は、自分ひとりでいつでも作成でき、修正、変更も容易であるため、便利に使われがちです。しかし、正しい作成方法、注意点を知らなければ、遺言が無効であると判断される可能性も高いのが、自筆証書遺言です。
自筆証書遺言だからといって甘くみず、自分で遺言を作成する場合であっても、完成した遺言を、相続問題を取り扱う弁護士、司法書士などにチェックしてもらうことで、相続トラブルを未然に防止できます。
「相続財産を守る会」には、相続に強い弁護士が在籍しており、複雑な相続問題を多く解決した過去の実績から、無料相談にて相続をお手伝いしています。