「遺産分割」とは、亡くなった方(被相続人)の遺産を、相続人の間で分ける手続きです。
ご家族がお亡くなりになった後、多忙であったり、遺産分割協議が円滑に進まないまま放置されたりした結果、遺産分割が長期間にわたって行われず、不動産の登記が亡くなった方のままとなっているような事例があります。
結論からいうと、「遺産分割」自体に期限はありません。しかし、いつまでも遺産分割を行わずに放置しておくとデメリットも多くあります。というのも、遺産分割に付随するいくつかの相続手続きには、明確な期限があるからです。
そこで今回は、遺産分割と、相続の際に注意しておくべき期限について、相続に強い弁護士が解説します。
「遺言」の人気解説はこちら!
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相続財産を守る会を運営する、弁護士法人浅野総合法律事務所では、相続問題と遺産分割のサポートに注力しています。
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野です。
お亡くなりになったご家族が遺言を残していたり、相続財産が多くあったりする場合、遺産分割にすぐ着手し、相続をするのが一般的ではないでしょうか。
しかし、相続財産があまりないと思って着手しなかったとか、相続手続きの期限を知らずに放置していたりする相談者もいます。お亡くなりになった方の相続手続きが終了していないのでは?と疑問の方は、ぜひご相談ください。
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遺産分割には期限がない
遺産分割そのものに、法律上の期限はありません。1年後でも、5年後でも、10年後であっても遺産分割をすること自体は、法律上可能です。
ただ、今回解説するように、相続に関連する手続きの中には、あらかじめ遺産分割をしておかないと不利益が生じてしまうものもあります。そのような手続きの期限が来る前に、遺産分割を行うべきでしょう。
また、期限がないとはいえ、遺産分割をせずに長期間放置しておくと、相続財産(遺産)が共有のままとなり、自由に利用したり処分したりできなくなります。
相続財産(遺産)が共有状態だと、現金が必要な場合でも、不動産を売却できなかったり、預貯金債権の払戻しを受けることができない可能性があります。
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遺産分割の種類と手続・方法の種類は、こちらをご覧ください。
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【3か月以内】相続放棄の期限
相続放棄とは、文字通り、相続人が相続を放棄すること、つまり相続しないことをいいます。
相続放棄は、家庭裁判所で相続を放棄するという意思表示をする方法で行いますが、この家庭裁判所への申述手続には、「3か月以内」という期限が存在しています。
相続放棄をしたほうがよいかどうかは、相続財産を調査し、その結果によって判断しなければならず、期限内に行わなければならない点で一番急がなければならない手続となります。
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「相続放棄をすべき場合かどうか?」については、こちらをご覧ください。
相続のしかたには、単純承認、限定承認、相続放棄の3種類があります。 相続放棄は、ほかの2つの方法(単純承認、限定承認)が、相続財産を引き継ぐことを前提としているのに対して、相続財産を引き継がないための ...
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相続放棄とは?
相続放棄をすると、亡くなった方がもっていた財産も、債務も、一切相続しないことになります。亡くなった方が財産が少ないのに多額の借金を抱えていた場合、相続をすると、相続人がその借金を返済しなければなりません。
このような場合に、相続放棄が行われます。
注意ポイント
一応相続はしたいと考えているが、債務がどのくらいあるか分からないという場合、「限定承認」という方法もあります。「限定承認」は、亡くなった方の相続財産の限度で亡くなった方の債務を返済する、という制度です。
ただし、限定承認は、共同相続の場合(=相続人が複数いる場合)には相続人全員が共同でしなければなりません。そのため、常にこの制度を利用できるわけではありません。
熟慮期間3か月とは?
相続放棄(限定承認も同じ)には、「熟慮期間」と呼ばれる期間があります。
相続放棄は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」以内にしなければならなりません。この期間は、相続するか、相続放棄をするか、限定承認をするか、を考えることができるので、「熟慮期間」と呼ばれます。
熟慮期間の起算点は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」です。
もっとくわしく!
例外として、相続人が未成年者であるか、または成年被後見人である場合は、熟慮期間の起算点は、これらの者の法定代理人(両親や成年後見人など)が、本人のために相続の開始があったことを知った時が起算点となります。
なお、成年被後見人の場合は法定代理人の認識した時点が基準となりますが、被保佐人の場合には、原則どおり、被保佐人自身の認識した時点が基準となりますので注意が必要です。
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限定承認すべき場合とは?限定承認の方法と手続の流れを弁護士が解説
限定承認について、その方法と手続を解説します。相続人は、相続が開始した時点から、お亡くなりになった方(被相続人)の一切の権利義務を承継します。 一切の権利義務の中には、プラスの相続財産(遺産)も含まれ ...
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熟慮期間を過ぎるとどうなる?
熟慮期間内に何もしないと、相続を「単純承認」したものと扱われます。つまり、財産も債務も、亡くなった方のものをあるがまま相続することになります。熟慮期間が過ぎてしまうと相続放棄や限定承認をすることはできません。
相続人が複数いる場合、それぞれの相続人ごとに、熟慮期間が算定されます。
たとえば・・・
A、B、C3名の相続人がいる場合、Aの熟慮期間が過ぎてしまうと、BやCの熟慮期間が過ぎていない場合でも、Aは相続放棄や限定承認をすることができなくなります。
Aの熟慮期間が過ぎたとしても、B,Cは自分の熟慮期間が過ぎていなければ相続放棄はできます。
相続放棄や限定承認をするかを決めるためには、相続財産の調査を行わなければなりません。また、相続放棄などをしないとしても、遺産分割をする前提として、財産や負債がどれくらいあるのかを調べる必要があります。
3ヶ月という熟慮期間は決して長いものではありませんので、遺産分割をすぐに行わない場合でも、亡くなった方の財産や債務の状況を調べることは、すぐに行うべきです。
熟慮期間を伸長する方法
熟慮期間は、利害関係人(典型的には相続人本人)または検察官が申し立てることで、家庭裁判所において、伸長できます。亡くなった方の財産状況の調査に時間がかか場合には、熟慮期間の伸長を検討すべきでしょう。
この申立てをすべき先の裁判所は、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
相続人が、熟慮期間の伸長の申立てをするとき、申立書のほか、最低限、以下の書類が必要です。申立てに必要な費用は、相続人1人につき収入印紙800円分と、手続きでの連絡用に使う郵便切手です。
ポイント
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 熟慮期間の伸長を求める相続人の戸籍謄本
この他にも、申立てをしようとする者と相続人との関係に応じた書類(亡くなった方の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本など)が必要です。事前に裁判所に確認するのがよいでしょう。
【4ヶ月以内】準確定申告の期限
所得税の確定申告の必要な方がその年の中途で亡くなった場合には、その相続人は、死亡の年の1月1日から亡くなった日までに被相続人が得た所得金額と税額を計算して、申告・納付を行う必要があります。
この手続きを「準確定申告」といいます。
所得税の準確定申告は、税務署に申告・納付を行う手続きとなりますが、この手続きには「4か月以内」という期限が存在します。
準確定申告とは?
準確定申告を行う場合には、以下の書類を、亡くなった方の死亡当時の納税地の税務署長に提出します。
ポイント
- 準確定申告書
- 各相続人の氏名、住所、被相続人との続柄などを記入した「付表」
相続人が複数いる場合には、各相続人が連署して準確定申告書を提出するのが原則です。
ただし、相続人の一人が、他の相続人の氏名も書いた上で提出することもできます。この場合、申告書を提出した相続人は、他の相続人に、申告した内容を通知する必要があります。
準確定申告の期限とは?
準確定申告は、相続人が相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に行う必要があります。
準確定申告が、2つの確定申告の期間をまたぐ場合には、どの期間の準確定申告をいつまでに行わなければならないか、次の例を見てご理解ください。
たとえば・・・
2018年分の所得についての確定申告をしなければならない人が、翌2019年1月1日から確定申告期限までの間に確定申告書を提出しないで死亡した場合(たとえば1月下旬に亡くなった場合)には、2018年分と2019年分の両方について、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に準確定申告を行う必要があります。
なお、亡くなった方が個人事業者で、かつ、消費税の課税事業者であった場合には、同様に、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に、税務署長に、消費税についての申告書を提出する必要があります。
4ヶ月の期限を過ぎたらどうなる?
期限内に準確定申告を行わない場合には、延滞税が課される可能性があります。
相続税の節税対策、生前対策などによって少しでも税金を少なくしようと努力しても、税金の納付・申告期限を理解していなかったり、怠ってしまったりしていれば、予想外の出費となってしまうおそれがあります。
【10ヶ月以内】相続税申告の期限
相続や遺贈などで取得した財産が「基礎控除額」を超える場合に、相続税の申告や納税が必要となります。「基礎控除額」の範囲内の相続であれば、申告も納税も必要ではありません。
相続税の申告・納付の手続にも、「10カ月以内」という期限が存在します。
相続税とは?
相続税とは、亡くなった方から相続人などが相続した財産に対して課される税金です。
「基礎控除額」として、「3000万円+600万円×相続人の人数」を越える相続財産(遺産)に相続税がかかりますが、一方で、これを超える価額の財産を相続する場合でも相続税がかからない場合もあります。
たとえば・・・
「配偶者の税額軽減」の制度(配偶者が法定相続分で相続するか、あるいは1億6000万円以下の財産を相続する場合であれば無税)を利用する場合には、基礎控除額を越える財産にも相続税がかかりません。
ただし、この制度を利用する場合には、相続税はかかりませんが、相続税の申告は必要となります。
相続税の申告書の提出先は、亡くなった方の死亡の時における住所が日本国内にある場合は、亡くなった方の住所地を所轄する税務署です。相続人の住所地が基準になるわけではない点に注意が必要です。
相続税の申告期限とは?
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に対して行う必要があります。
この期間内に遺産分割が完了していない場合でも、相続税の申告は行う必要があります。
申告期限までに申告をしなかった場合には、延滞税などが課される場合があります。
相続税の申告期限までに遺産分割が間に合わないとどうなる?
さきほど解説した「配偶者の税額軽減」は、配偶者が遺産分割等で実際に取得した財産をもとに計算されます。
そのため、相続税の申告期限までに分割されていない財産は、原則として、税額軽減の対象になりません。
例外として、相続税の申告書等に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付した上で、申告期限から3年以内に分割したときも、税額軽減の対象になります。
この他にも、相続税に関しては、遺産分割が完了していることを前提として適用される税法上の特例があります。相続による税負担を軽減するため、遺産分割はできる限り早めに行うべきです。
また、相続税の申告期限までに遺産分割が完了していない場合には、法定相続分どおりに各相続人が相続したものとして相続税が課され、実際に税金を納付する必要が生じます。
実際に財産を相続したわけではないのに相続税を納付する資金が必要になりますので注意しましょう。相続税の申告や税負担の軽減方法については、相続税にくわしい税理士に相談するのがよいでしょう。
【1年以内】遺留分減殺請求の期限
遺留分(いりゅうぶん)とは、法定相続人に認められた、相続財産の最低限の取り分のことです。近しい相続人の権利を守り、その生活を保障するために定められた、民法上の制度の1つです。
たとえば、配偶者と子どもが相続する場合には、配偶者には、遺産の1/4が遺留分として認められます。
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遺留分が認められる場合と、計算方法・請求方法は、こちらをご覧ください。
相続のときに、「相続財産(遺産)をどのように分けるか」については、基本的に、被相続人の意向(生前贈与・遺言)が反映されることとなっています。 被相続人の意向は、「遺言」によって示され、遺言が、民法に定 ...
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遺留分減殺請求権とは?
仮に、亡くなった方が遺言で子どもに全財産を相続させた場合には、配偶者の取り分がありません。この場合、配偶者は、1/4の遺留分を確保できなかったことになります。
このような状況を「遺留分の侵害」といいます。
遺留分を侵害された場合、侵害された相続人は、財産を得た者に対して、自分の遺留分に相当する財産を取り戻すための請求をすることができます。この権利を「遺留分減殺(げんさい)請求権」といいます。
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遺留分減殺請求権の行使方法を、弁護士がわかりやすく解説!
相続が開始されたときに、相続財産をどのように引き継ぐ権利があるかは、民法に定められた法定相続人・法定相続分が目安となります。 しかし、お亡くなりになった方(被相続人)が、これと異なる分割割合を、遺言に ...
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遺留分減殺請求権の期限を過ぎるとどうなる?
遺留分減殺請求権は、相続の開始と減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、その後は行使することができません。
また、相続開始の時から10年を経過した場合も、同様に権利を行使することができなくなります。
期限内の遺留分減殺請求権の行使の方法
遺留分減殺請求権は、裁判でなくとも行使することができます。もちろん、いきなり裁判を起こすことも可能です。
期限まで時間がない場合には、まずは遺留分を侵害するような贈与や遺贈によって財産を受け取った者に対して内容証明郵便を送って、権利を行使しましょう。
【2年以内】葬祭料・埋葬料の請求期限
国民健康保険の被保険者が亡くなった場合、その亡くなった方の葬祭を行った方に、葬祭費が支給されます。金額は市区町村によって異なり、最高で7万円です。
また、健康保険の被保険者が亡くなった場合には、その亡くなった被保険者と生計維持関係にあった家族で埋葬を行った方に対して、埋葬料が支給されます。
これらのお金の請求期限は、葬祭を行った日、あるいは被保険者が亡くなった日から2年です。それを過ぎてしまうと請求はできません。
【3年以内】生命保険の死亡保険金の請求期限
生命保険の死亡保険金の請求は、被保険者が亡くなった日から3年以内に行わないと、時効によって請求ができなくなる可能性があります。
どのような生命保険がかけられているか、事前にご家族で情報共有をしておく必要があります。生命保険についての調査が必要な場合には、弁護士・司法書士など相続の専門家にお任せください。
【5年10ヶ月以内】相続税の還付請求期限
相続税の還付とは、払いすぎた相続税の返還を受けることです。
相続税は、被相続人が亡くなったことに対応しながら10ヶ月という短い期間に申告と納付をすませる必要があり、また過少申告に対しては税額の追加というペナルティもあるため、時に本来よりも多くの税金を納めてしまうことがあります。
納め過ぎた相続税の返還を受けるのが相続税の還付の手続きです。
相続税の還付手続の期限は、相続税の申告期限(相続開始を知った時から10ヶ月)から5年間、つまり、相続開始を知った時から5年10ヶ月以内です。
遺産分割サポートは「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、「遺産分割に、期限はあるのでしょうか?」というご相談について、相続に強い弁護士が解説しました。遺産分割には期限がないものの、相続手続きの中には、気にしておかなければならない期限が多くあります。
そして、問題をより難しくしているのは、相続手続きにおいて注意すべき期限は、法律・税務・登記など、多くの分野にまたがって存在していることです。
弁護士だけの立場から、税理士だけの立場から、相続手続きの期限を見るべきでなく、期限を過ぎてしまって損をする相続にしないためには、さまざまな観点から相続問題を見て、期限を過ぎていないかチェックしなければなりません。
「相続財産を守る会」では、相続問題に強い弁護士はもちろん、税理士、司法書士など、多くの分野の専門家が在籍し、相続手続きをすべて一括してお任せいただくことができます。