今回は、相続相談に対して、実際に遺産相続に強い弁護士が受任し、解決に導いた事例を、「解決事例」の形式でご紹介します。
遺言書があり、民法で最低限相続できることが保障された「遺留分」を侵害されている場合には、遺留分を侵害している相続人に対して、その返還を求めることができます。
しかし、実際には、遺言書があると遺言によって相続財産(遺産)を得た相続人が単独で相続登記などを行うことができるため、「遺言書があるのかどうか」がそもそも知らされず、どうしてよいのかわからず、対応にお迷いになる相談ケースも少なくありません。
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遺留分の認められる割合と、計算方法は、こちらをご覧ください。
相続のときに、「相続財産(遺産)をどのように分けるか」については、基本的に、被相続人の意向(生前贈与・遺言)が反映されることとなっています。 被相続人の意向は、「遺言」によって示され、遺言が、民法に定 ...
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遺留分減殺請求権の行使方法は、こちらをご覧ください。
相続が開始されたときに、相続財産をどのように引き継ぐ権利があるかは、民法に定められた法定相続人・法定相続分が目安となります。 しかし、お亡くなりになった方(被相続人)が、これと異なる分割割合を、遺言に ...
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相続相談の内容
相談内容
私の家族には、母と兄がいます。父は既に、相当昔に他界したためおりません。
私は、大学進学を機に上京し、その後結婚して家庭を築いたため実家には戻っておりませんでした。兄は、地元の大学にいき、結婚もしていなかったため、母と同居して面倒を見ていたようです。
昨年末、母が既に数か月前に亡くなっていたことを親戚伝いに聞きました。突然のことでびっくりしましたが、母には、父の死亡の際に相続した自宅など、財産があったはずです。
確かに、上京した後は家にも戻らなかった私よりも、母と同居していた兄のほうが母の面倒を見ていたでしょうが、私にも財産を相続する権利があるはずです。遺言書があるのかどうか、兄に聞いても連絡が返ってこないため、わかりません。
相続専門家(弁護士)の回答
初回相談時の回答
弁護士の浅野です。この度は、相続についてのご相談をいただき、誠にありがとうございました。
公正証書遺言などの方法によってお母様が遺言書を残し、「兄にすべての相続財産(遺産)を相続させる」と記載していた場合には、ご相談者の方に協力を求めなくても、自宅などの不動産の登記名義を変更(相続登記)し、預貯金を解約したり払い戻したりすることができます。
そのため、まずは法務局(登記所)で、登記簿謄本を取り寄せ、自宅などの不動産の名義変更が行われているかを確認しなければなりません。
「利害関係人」であれば、登記申請書とその附属書類を閲覧することができ、どのような原因で登記をされたか、また、遺言書が添付されている場合にはその内容などを、調査することができます。相続人は、当然「利害関係人」に含まれますから、法務局で閲覧手続ができます。
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遺産相続を弁護士に相談・依頼する流れは、こちらをご覧ください。
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受任後の弁護士による問題解決
遺言書を確認したところ、案の定、公正証書遺言が存在し、その内容は、「兄に全ての財産を相続させる」という内容でした。そこで、遺言書によって侵害されたご相談者の遺留分を守るための、遺留分減殺請求について、弁護士が受任してお手伝いすることとなりました。
遺留分の割合は、お母様が死亡し、相続人が兄弟2人のみの場合であるため、「2分の1」となります。したがって、実際に請求する具体的遺留分は、「相続財産(遺産)の金額×2分の1(法定相続分)×2分の1(遺留分割合)=4分の1」となります。
公正証書遺言に記載された相続財産(遺産)を合計すると全部で8000万円の財産があり、相談者に確認をしたところ、目ぼしい財産に抜けはなさそうだとのことでしたので、ご相談者の遺留分の金額は「8000万円×4分の1=2000万円」です。
配達証明付き内容証明郵便を、弁護士名義で作成し、お兄さんに対して、遺留分減殺請求権を行使しました。
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遺留分減殺請求の内容証明の書き方は、こちらをご覧ください。
遺留分減殺請求権とは、民法で認められた法定相続人のうち、兄弟姉妹以外(配偶者、子、孫、直系尊属)がもつ、遺言などによっても侵害されずに相続できる相続分のことをいいます。 生前贈与や遺言による贈与(遺贈 ...
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遺留分の時効は、遺留分の侵害を知ったときから進行しますので、遺言書の内容を知らなかったご相談者の遺留分の時効が到来するまでには、まだまだ余裕がありました。そこで、不動産会社に査定を依頼し、不動産の時価評価額を算出し、できる限り高い評価で、遺留分減殺請求を行いました。
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相続で注意すべき「期限」については、こちらをご覧ください。
「遺産分割」とは、亡くなった方(被相続人)の遺産を、相続人の間で分ける手続きです。 ご家族がお亡くなりになった後、多忙であったり、遺産分割協議が円滑に進まないまま放置されたりした結果、遺産分割が長期間 ...
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お兄さんからは、お母様の生活費を立て替えていた旨や、入通院の送り迎えを行った旨の反論がされましたが、同居をしておりお兄さんの生活費用も浮く部分があることや、通常の扶養の範囲内であることなどを指摘しました。
最終的には、相手方にも弁護士が選任され、話し合いの結果、訴訟で求められる遺留分の満額に近い金額で和解しました。
相続問題は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、相続人であるにもかかわらず、実家と疎遠であったことが原因でご家族がお亡くなりになったことを知らず、その間に相続が進んでしまっていたというご相談者に向けて、遺留分を実現して解決した解決事例を紹介しました。
遺言書が存在しない場合には、疎遠な家族であろうとも、相続登記や預貯金の名義変更をするために、連絡をする必要が出てくるはずですが、知らないうちに相続手続きが進んでいた場合、遺言書が存在したと考えて調査を進めるのがよいでしょう。
そして、遺言書が存在したことが理由で、相続財産(遺産)を一切得られないまま相続手続きが進んでしまっていた場合には、遺言書の存在を知ってから1年以内に、遺留分減殺請求権を行い、相続財産(遺産)を取り戻すことができます。