老後の不安や、将来必ず訪れる相続の不安を抱いているとき、「不安」の中身を具体的に意識し、対処法を考えていらっしゃる方がどれほどいるでしょう。おそらくとても少ないのではないでしょうか。
「不安」の正体は「リスク」、すなわち、将来相続の際に、よからぬ事態に陥ってしまう可能性の高さです。しかし、よからぬ事態にどのようなものがあるのかを具体的に意識しなければ、対策も立てられません。また、不安解消だけでなく、現在を精一杯楽しむ努力も必要です。
そこで今回は、損害保険・生命保険業界出身でありながら、保険だけでは解決できない将来のリスクを解消することを目指している、一般社団法人日本Happy Ending協会、代表理事の齋藤真衡氏にお話を伺いました。
一般社団法人日本Happy Ending協会
代表理事会長 齋藤 真衡
保険業界の経験から、保険だけで解消できない将来のリスクを痛感。「Happy Endingカード」を切口に、お金の問題だけでなく将来のあらゆる問題への備えを目指します。
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目指す「Happy Ending」とは?
――保険業界出身ということですが、なぜ現在のお仕事にたどり着いたのでしょうか。まずは、貴法人のご紹介をお願いします。
齋藤(以下、敬称略):私は、32年間にわたり、安田火災海上保険、INA生命保険、損保ジャパンなどの保険会社で働いていましたが、自分はそうはならないと思っていた「万一」に直面したお客様を数多く担当しました。そこで気づいたのは、保険ではカバーできないお金以外のリスクの存在です。円満な相続ができないこともそのリスクのひとつですね。保険はお金のリスクをカバーするのにとても優れた商品ですが、お金以外のリスクには無力です。
「終わりよければすべてよし」と言いますが、保険をかけていたのにHappy Ending にならない人は少なくありません。人が万一のことを考えることは滅多にないので、せっかく保険を検討するのであれば、合わせてお金以外のリスクについても気づいてもらい、回避したいと思われたリスクへの備えをサポートしたいと思ったのです。これをHappy Ending を迎えるための“もうひとつの保険”と言っています。
――まさに、将来必ず起こる相続問題は、「お金のリスク」ですし、一面では「お金以外のリスク」もはらんだとても難しい問題ですね。
齋藤:その通りです。とは言っても、相続もそのひとつではありますが、お金以外のリスクは幅広く、また、死について語るのを縁起が悪いとして忌避する文化がリスクを助長しています。
幅広いリスクであり、縁起の悪いリスクに気づいてもらうには、よくある「遺言セミナー」、「相続セミナー」のように部分的かつダイレクトなアプローチではお客様に受け入れられにくいと思います。これは要塞を正面から攻めているように見えます。
――貴法人では、セミナーのようなダイレクトなアプローチではなく、相続問題をはじめとしたリスクに気づいてもらうために、どのような工夫をしているのでしょうか?
齋藤:お客様が自ら手にとってやってみたいと言っていただけるような仕組みとして、包括的かつ間接的なアプローチである「Happy Endingカード」を開発しました。
そして、Happy Ending カードを活用する様々な業種の専門家である約400名のHappy Endingプランナーを通じてHappy Ending の普及に取り組んでいます。
気づきを与える「Happy Ending カード」とは?
齋藤:早速ですが、ここに実際のカードがありますので、一度プレイしてみましょう。
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――なるほどですね。実際のカードはとてもカラフルで楽しそうですね。それでは、Happy Endingカードのプレイ方法を教えてください。
齋藤:Happy Endingカードは49枚あり、表面には、それぞれ、将来遭遇するかもしれないリスクが、イラストとともに簡潔に記載されています。例えば、「あなたの死後、財産を残したいのは、血縁者である。」、「植物人間状態になった場合に、人工的な延命をするか、決めて伝えてある。」といった具合です。
まずは、これらのカードを、自分の気持ちに従って、「そう思う」と思ったものは「Yes」、「そうは思わない」と思ったものは「No」に振り分けてください。あまり深く考えず、直観にしたがって素早くやっていただくと、自分の気付いていない本当の気持ちが明らかになります。
――Yes、Noに振り分けました。とりあえずあまり深く考えずに分けましたが、これでどのようなことがわかるのでしょうか。
齋藤:まず、49枚のカードによってセカンドライフの疑似体験をしていただいたことになります。カードをめくるだけで今後の人生に遭遇するかもしれないリスクに気づくのです。プレイヤーの多くはリスクを知っただけでもホッとすると言います。
そして、「Yes」、「No」に振り分けたうち、「Yes」に置いたカードはすでに備えていたことであり、「No」に置いたカードは、「あなたがまだやっていないこと」なのです。即ち、未対応のリスクを抽出することができた訳です。
次に未対応の「No」に置かれたカードを「Happy」と「Risk」に振り分けます。「Happy」は、「やらなくても幸せだ」と思うもの、「Risk」は「やらないと後悔する」と思ったものです。これも自分の価値観に沿って直観で分けてください。
――分けました。「Risk」に置いたものは、自分でも「なぜやっていなかったのだろう」、「早く手を付けたい」と思うものばかりですね。
齋藤:そう、感じるはずです。「Happy」、「Risk」の振り分けは個人の価値観に基づいた、備えたいリスクの選択です。これが「セルフニード喚起」です。私は一言も特定のリスクに備えた方がよいと提案することはありません。プレイヤー自身がカードと対話することにより、素直な気持ちで、相続を含めた将来の問題について、何をしたいかを自然と気づいてもらえます。
最後に、「Risk」に置いたカードを、自分で対処できるリスクと、自分では対処できないので、お金を払って専門家(プロ)に解決してもらうリスクに振り分けてもらいます。
リスクを知っただけではHappy Ending になりません。プレイの目的は、備えに着手することです。そこで、様々な業種の専門家であるHappy Ending プランナーが、「チームトラスト」と称するプレイヤーごとのプロジェクトチームを構成して、プレイヤーでは対処できないリスクへの備えのお手伝いをしています。
Happy Endingカードは、ニード喚起をするとともに、お客様に、自分で解決できないリスクを相談できる専門家に導く仕組みでもあるのです。
Happy Endingカードを、遺産相続対策に結び付けるには?
――Happy Endingカードはまさに「目から鱗」でした。これなら、口コミで広がっていきそうですね。実際にカードをプレイした人達の様子は、どのようなものですか?
齋藤:実際にプレイしてもらった数百人にYes、No形式のアンケートに協力していただいていますが、おおよそ次のような傾向になっています。
ポイント
Q「プレイは面白かったですか?」-Yes 90%
Q「もっと深く知りたいですか?」-Yes 60%
Q「自分で対策を実行する自信がありますか?」-No 60%
Q「様々な老後のリスクを総合的に相談できる人はいますか?」-No 80%
Q「Happy Ending カードを誰かに紹介したいですか?」Yes 90%
多くの人がHappy Ending カードをプレイして喜んでいただいています。
また、相続を含めたリスクに気づいたとしても、対策の実行はひとりでは難しいと気づいたことがわかります。「自分では話せないので、家族にもやらせたい」という声もよくいただきます。
家族で対話をはじめる端緒となればよいですね。
――まさに、遺産相続対策の、いちばん初期段階に活用できそうなツールですね。プレイをした人達が喚起されたニードを、どのようにすくいあげていくかが重要ですね。この点はどのようにしくみ化しているのでしょうか?
齋藤:まず、プレイ中、もしくは終了後にカードをかざして、自分のことについて話し出す人、質問をする人が少なくありません。質問をしたくなる仕掛けがカードにはあります。プレイヤーから切り出していただければ、問題の整理は容易です。カードはプレイヤーとのコミュニケーションの触媒だと言えます。
また、カードをプレイした結果を診断結果として複写式のチェックシートに記載してもらいます。チェックシートに自分でチェックしていくことによって、プレイの結果としてのリスクを再度整理して理解することができます。
――アンケートやチェックシートは、相続問題の気付きの山ですね。
齋藤:アンケートとチェックシートは提出をお願いしていますので、Happy Endingプランナーは、お客様が今後の人生で備えておきたいことの意向を把握することができます。さらに一歩踏み出すために、相談が必要な場合には、あらゆる専門家を紹介することが可能であることを伝えます。
実際、ある地方銀行の主催で50人の高齢者に向けてHappy Endingカードの体験をしてもらったところ、アンケートに回答していただいた40人中7人が「初回相談をしたい」と回答しました。そのアンケートとチェックシートを元にそれぞれの担当支店からフォローをしています。その他、次のような嬉しい言葉をいただいています。
- 「本腰を入れて老後を考えたいと思った」
- 「自分では考えていたつもりだったが、人には伝えていなかった」
- 「準備していなかったことがわかった」
- 「老後の準備は退職した後では遅すぎることがわかった」
- 「家族と、私の死についてきちんと話したい」
- 「やりたいことが多いことに驚き反省した」
Happy Endingな専門家紹介へつなげる
――どのような人に、Happy Endingカードを利用してもらいたいですか?
齋藤:人生に待ち構える様々なリスクを知らないよりは知っていた方が有利ですから、誰でも一度プレイしていただきたいと思いますが、やはりリスクに遭遇する可能性が高いのはシニア、高齢者です。
また、相続問題を間近に抱える個々の高齢者に、利用してもらいたいのはもちろんなのですが、私たちはシニア層が主要マーケットである金融機関、保険、介護事業者、葬儀会社など向けて、Happy Endingカードを起点としたHappy Ending サービスをご紹介しています。
例えば、現在ご紹介できるところでいいますと、2000人以上の利用者を抱える介護事業者様からHappy Ending サービスの業務委託を受けています。不動産の活用・売却、生活資金の相談からはじまり、任意後見を起点として遺言、死後事務までの公正証書の作成、葬儀、相続手続などHappy Ending に必要な備えをサポートしています。
今まで対応が十分ではなかった介護、看護以外のサービスを提供できるようになったと、介護事業者にも喜んでいただいています。
――将来の相続対策などのために、ご紹介いただける専門家の方には、どのような方がいらっしゃいますか?
齋藤:相続はもちろん重要ですが、Happy Ending な相続は包括的なサービスとなります。
特定の仕事から発想するのではなく、お客様のニーズからサービスを構成しています。
紹介するサービスは、弁護士、税理士、司法書士、行政書士といった士業だけでなく、不動産、生前・遺品整理、葬儀、FP、保険のセールパーソンなどのお金のリスク回避の専門家や、アルバム作成、家系図作成など、今を幸せに生きていくためのサービスもあります。要はHappy Ending に必要なものは可能な限りサポートしたいということですね。
介護、看護を必要とされている本人とご家族は、それに対応するだけで精一杯であり、気づいていないリスクへの対応が急がれる状況ですから、Happy Ending プランナーがそれ以外のリスクを分かりやすくお知らせして、スピーディにサポートするよう心がけています。
更なる皆様の「Happy Ending 」のためにできること
――貴法人の、Happy Endingカードを利用したニード喚起のしくみと、相続をはじめとした終活への取り組みは、よく理解できました。今後の貴法人の展開は、どのようにお考えですか?
齋藤:まずは、相続をはじめとしたHappy Endingサービス を提供できるチームトラストを広げていきたいと考えています。
しかし、規模の拡大が目的ではありません。少しずつ知見を積み上げていきたいと思います。提案する先としては、超高齢社会の問題解決に医療・介護事業者との連携は不可欠だと考えますので、地域に根差した体験会を開催し、地域の医療・介護事業者などにも、Happy Endingカードを知っていただきたいと考えています。
――なるほどですね。対象が広いので、いろいろな方の助けが必要となりそうですね。私達士業ももちろんですが、どのような方が協力者となることが考えられますでしょうか。
齋藤:士業などの専門家のお力はもちろん必要ですが、チームの運営のためには、先ほど挙げた業種の他に、幅広い知識と、対人折衝力を有する、信頼感のあるコーディネーターの介在が不可欠となります。
コーディネーターは人生経験を積んで第二の人生で社会に貢献したいと考えている人が適任です。その意味では業種ではなく、人ということになります。しかし、コーディネーターの仕事はボランティアではなく、持続性のあるビジネスにしていくつもりです。
認知症になってしまえば遺言を作るのも困難、お金のことを準備する前に介護状態になどということのないように、あくまでも早期の予防、備えへの着手を主体のサービスを目指しています。“もうひとつの保険”を掛けてHappy Ending になる人が増えれば超高齢社会の様々な問題は改善していくと思います。
――ありがとうございました。最後に、相続・終活に関わる方や、相続にお悩みをお持ちの方に向けて、Happy Endingを迎えるための一言メッセージをお願いします。
齋藤:士業の方々も他業種と提携することによって相続に関するサービスを提供しようとされていますが、残念ながら上手く行っているという話はあまり聞きません。チームとしてどのように活動したらよいか、悩まれている方がいらっしゃると思います。
私は、チームが回り始めるには2つポイントがあると思います。
第一は、何を目的として活動するのかという大義の存在です。これはどのようなサービスをお客様に提供するのかという質的なレベルに大きく影響します。第二は協働するための具体論です。セミナーを開催するにしても、紹介を受けるにしても、相手から分かりやすいUSP(Unique Selling Proposition)が必要です。
弊協会はプレイヤーをHappy Ending にすることを大義としています。プレイヤーを1業種でHappy Ending にすることはできないので、他業種とプロジェクトを組むのは必然なのです。従って、提供するサービスはお客様のエンディングを見据えたものでなければなりません。第二は、Happy Ending カードです。
このカードによって間接的ではありますが、なんらかのプレイヤーのニーズをキャッチすることが可能です。チームメンバー誰もがHappy Ending カードを使ってお客様に老後の不安を解消する活動をすれば、それなりの相談を受けることが可能となります。
弊協会が提供しているのは、ニード喚起ツールではなく、マーケティングの仕組みだと考えています。
一度Happy Ending カード体験会に参加していただくと、具体的なイメージをつかんでいただけると思います。何ごとも結果は準備次第です。早めに必要性に気づいて頂き、先送りせずに相続を含めたHappy Ending の準備を始める人が1人でも増えればと思っています。