不動産(土地・建物など)を持つ地主の場合、特に相続分割のときにトラブルとなりがちです。
不動産を所有した地主の方がお亡くなりになり、「不動産を全て、1人の相続人に相続させる」という遺言書が残っていると、不動産を得られなかった相続人は、どのような請求ができるでしょうか。
よくある相続相談
不動産を相続できると思っていたら、1人の相続人にだけ相続させるという遺言書が発見された。
不動産から得られる賃料を、1人の相続人がずっと得ていた。
相続財産に占める不動産の金額が大きく、不動産の分割方法について話し合いが成立しない。
相続財産に含まれる不動産(土地・建物など)の価値が高額であればあるほど、相続の争いは大きくなります。
しかし、不動産を共有にしておけば、相続の争いは長期化します。どのような形であれ、不動産(土地・建物など)を分割する話し合いが必要となります。
遺言、生前贈与、死因贈与などで、相続財産となる不動産を得られなかった相続人の方に向けて、その救済となる遺留分減殺請求権(遺留分侵害額請求権)について、弁護士が解説します。
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区)、代表弁護士の浅野です。この記事の解説は、私が監修しています。
相続人であるにもかかわらず、相続財産がもらえないことがあります。遺言など、お亡くなりになった方の意思が、最大限尊重されるからです。
不動産(土地・建物など)が相続財産に含まれる場合には、相続で争いとなる金額が高額になります。
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遺留分減殺請求権(遺留分侵害請求権)を行使する
冒頭のように、相続財産に不動産(土地・建物など)が含まれている場合、その財産のすべてが遺言によって1人の相続人に与えられる場合、他の相続人の「遺留分」を侵害することが明らかです。
遺留分の基本的な考え方は、「民法に決められた相続できる財産(法定相続分)のうち、一定割合は、相続人が相続することを保証されている」というものです。
遺留分の計算方法、「誰が、いくらもらえるのか」という疑問は、下の解説で解消してください。
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遺留分の具体的な計算方法について、詳しくはこちらをご覧ください。
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現物返還の原則
従来の「遺留分減殺請求権」は、「現物返還」が原則とされていました。
不動産(土地・建物など)を相続できなかった相続人が、その遺留分を侵害されたとき、遺留分減殺請求権を行使すると、土地・建物の共有持分を取得できるのが原則でした。
この場合、遺留分を請求する権利者の側で、財産の選択ができないとされていました。共有持分の登記を請求することになります。
「遺留分を侵害されているが、不動産はいらないので、お金を払ってほしい」という請求はできないということです。
ポイント
「遺留分減殺請求権」をきっかけとして、相続財産の分割について協議をすることは可能です。
協議の結果、遺留分を請求する人、請求される人の双方が合意するときは、「遺留分減殺請求権」のルールによらず、さまざまな柔軟な分け方による解決ができます。
価額弁償ができるケース
現物返還が原則の「遺留分減殺請求権」であっても、遺留分を請求された側が、「不動産を確保したいので、お金を払って解決したい」と希望することがあります。
遺留分を請求された側は、差し出す財産の選択ができることとされていました。不動産を確保し、金銭を支払う意思表示を、「価額弁償」といいます。
もっとくわしく!
「価額弁償」の意思表示は、財産ごとに行うことができます。
例えば、遺留分を請求された側の相続人が、不動産(土地・建物など)と預金のすべてを相続していたとき、ある不動産についてだけ、共有とはせずに金銭を支払う「価額弁償」を選択することができます。
遺留分を請求された側が、「価額弁償」を求めたとき、遺留分を請求する側にも、注意が必要な点があります。
遺留分を請求している側では、「価額弁償」を求めてお金を請求したときは、その後に現物返還を求めることはできないとされていますので、注意が必要です。
注意ポイント
判例(最高裁平成20年1月24日判決)では、ひとたび「価額弁償」の意思表示を受け、「価額弁償」の請求をすると、その後には、再度「現物返還」を請求することはできないと判断されました。
ひとたび「価額弁償」を請求した後に、しかし、相続財産を多く取得した方の財産がなくなってしまったとき、結局「価額弁償」の金銭を得ることができなくなってしまう危険があります。
法改正(2018年)による修正
このように、不動産が相続財産に含まれるときの、「遺留分減殺請求権」には、財産そのものを受け取る「現物返還」が原則であって、金銭を受け取る「価額弁償」は例外である、という点に弊害がありました。
「遺留分減殺請求権」が行使された結果、不動産(土地・建物)の共有状態となれば、相続人間の争いが、さらに激しくなることが容易に想定できるからです。
そこで、2018年に行われた相続法の改正によって、「遺留分侵害額請求権」と改称され、その内容も、「遺留分を侵害している金額分のお金を請求することができる権利」に改められました。
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法改正による「遺留分侵害額請求権」については、こちらをご覧ください。
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遺留分を算定するとき「不動産の評価」は?
遺留分を算定するためには、「不動産の価値がいくらか」を決めなければなりません。つまり、相続財産となる不動産の評価をしなければなりません。
遺留分の金額を算出するときに、不動産(土地・建物など)の価値を決めるときの「基準時」は、相続開始時が原則です。
したがって、相続開始時の不動産の価値にしたがって、「遺留分を侵害しているかどうか。」を判断する必要があります。
「不動産の評価」が争いになるケース
不動産の評価は、「預貯金」「現金」とちがって増減するため、争いになりやすいです。さらに、評価方法によって、遺留分として算出される金額も変わってきます。
相続財産にふくまれる不動産の評価は、遺留分減殺請求を受けた人が、「価額弁償」、つまり、「不動産を共有にするのではなく、金銭を支払う」ことを選択する場合に、争いになります。
多くの不動産の遺贈を受けている人は、不動産の価値を低く(安く)見積もろうとし、遺留分を侵害された人は、不動産の価値を高く見積もろうとするからです。
なお、2018年相続法の改正により、「遺留分侵害額請求権」となると、金銭を請求するのが原則となり、不動産を共有するという解決はなくなりますので、ますます、不動産の評価は争いの種となります。
「不動産の評価」の決め方
不動産の評価が、相続手続きにおいて争いになるときであっても、まずは、当事者間の話し合いによる解決を試みます。
つまり、遺留分減殺請求をした結果、「価額弁償」となったとき、遺留分を請求した人と、相続分より多くの不動産を得た人との間で、不動産の評価について話し合いを行います。
しかし、遺留分を請求した人にとっては、不動産の評価が高いほうが都合がよく、多くの遺贈を受けた人にとっては、不動産の評価は低いほうが都合がよいため、話し合いはなかなかまとまりません。
双方の主張の差が大きく、話し合いでは、不動産の評価額が決まらないとき、最終的には、裁判所が、鑑定をしたり、証拠調べをしたりして、不動産の評価を行います。
裁判において、裁判所が不動産の価値を決めるときは、「事実審口頭弁論終結時」が、基準時となります。
「不動産の評価」の判断基準
不動産の評価方法には、次のようなものがあります。
ポイント
固定資産税評価額
「固定資産税評価額」とは、固定資産税を算出するために用いられる基準の評価額のことをいいます。「固定資産税評価額」は、公示価格の70%を基準として決定します。
路線価
「路線価(相続税路線価)」とは、相続税の課税の基準となる評価額で、路線(道路)に面する宅地1㎡あたりの評価額のことをいいます。
工示価格
「公示価格」とは、地価公示法にもとづいて、土地鑑定委員会が不動産鑑定士の評価のもとに公表する土地の評価額のことをいいます。
実勢価格
「実勢価格」とは、現実に不動産取引が行われる価格のことをいいます。「実勢価格」によって不動産評価を行うとき、評価対象となる不動産の近隣の取引事例などを参考に決定します。
賃料収入がある場合の不動産の遺留分は?
ある1人の相続人が、すべての相続財産についての生前贈与を受けたときには、「遺留分が侵害される」という問題が生じることをご理解いただけたでしょうか。
「遺留分」を取り返すことによって、その不動産(もしくは価値相当分の金銭)を得られるだけでなく、その不動産に借主がいて「家賃収入」が発生していた場合にはどうでしょうか。
この場合に、家賃収入を取り返すことができなければ、家賃収入については、あらかじめ贈与を多く受けた人が得をすることとなります。
家賃収入を請求できる
民法では、遺留分減殺請求を行使されてしまったときは、その不動産の問題だけでなく、そこから得られる家賃(法律の専門用語で「果実」といいます。)も返還しなければならないこととされています。
具体的には、遺留分減殺の意思表示があった日以後に発生する家賃については、遺留分減殺を請求した人にも分けなければなりません。
家賃を返さなければならない割合も、遺留分の計算方法にしたがいます。
以上の「家賃収入の請求」は、「遺留分減殺請求権」を行使した結果、「現物返還」によって不動産が返還された場合に生じることであって、「価額弁償」の場合には生じません。
家賃の支払を拒否する場合
遺留分減殺請求権を行使した後も、その対象となる不動産から家賃(果実)が発生していたとき、その家賃に対して遺留分の割合だけの返還を求めることができます。
しかし、遺留分減殺請求権を行使された相手方が、家賃に支払を拒むことも考えられます。
この場合、遺留分減殺請求によって返還しなければならない賃料については、「利得」をする理由がないことから、「不当利得返還請求訴訟」を起こすことによって解決することとなります。
遺留分の問題は、「相続財産を守る会」にお任せください
いかがでしたでしょうか。
今回は、「相続人としてもらえるはずの相続財産(遺産)がもらえなかった」というご相談について、弁護士がくわしく解説しました。
「遺留分減殺請求権」について、2018年7月の相続法の改正で「遺留分侵害額請求権」という名になり、利用しやすくなりました。
今回解説した、不動産の遺留分についても、これまでの不都合があった状況を、「遺留分侵害額請求権」が解決してくれる部分もあります。
しかし、2018年法改正後であっても、不動産の遺留分は、相続問題の火種となります。
当会では、不動産の評価、不動産の遺留分について詳しい専門家が、多数在籍しています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
「遺留分」を侵害されると、相続人間の大きなトラブルの元となりますが、特にその中でも、不動産の遺留分については、非常に相談の多い分野です。
今回の解説をご覧になっていただくことで、次のことをご理解いただけます。
解説のまとめ
相続財産に不動産(土地・建物など)があるときの「遺留分」の考え方
不動産(土地・建物など)の「遺留分」の評価方法・請求方法
不動産(土地・建物など)から家賃収入が発生したときの「遺留分」の考え方
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