平成30年(2018年)7月6日に、相続に関する法律が改正されました。いわゆる「相続法改正」と呼ばれているもので、民法の一部(家族法部分)が改正されます。
成立した法律の正式名称は、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」といいます。
では、新しいルールはいつから適用され、現在のルールはいつまで適用されるのでしょうか。それを決めるのが改正法の「施行日」と「経過措置」です。
施行日や経過措置を正しく理解しないと、次のような不利な相続といった事態になりかねません。
改正後の新しいルールが使えると思って書いた遺言書が無効になってしまった
配偶者に多く財産を残すつもりだったのに少ない額しか受け取ることができなかった
「経過措置」とは聞きなれない言葉ですが、施行日以降であっても、一部古いルールが使えて、徐々に新しいルールを浸透させていくために置かれる「猶予期間」のこととお考え下さい。
今回は、2018年に行われた相続法の改正法のうち、主要な改正内容について、施行日と経過措置を、相続に強い弁護士が解説します。
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2018年相続法改正の内容まとめは、こちらをご覧ください。
平成30年(2018年)7月6日に、通常国会で、相続に関する法律が改正されました。 正式名称、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」という法律が成 ...
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改正相続法の「施行日」は?「経過措置」とは?
まずはじめに、2018年7月6日に改正された新しい相続法(民法)の主な施行日と、経過措置について解説します。
改正法の施行日は、改正内容によっていくつかの日にちに分かれているので、新しい制度を利用したいときは、その内容ごとの施行日を知るとともに、「経過措置があるかどうか」、「経過措置の内容」を理解しなければなりません。
改正法の施行日まとめ
「施行日」とは、改正された新しいルールが効力を生じる日です。2018年改正法の施行日を最初にまとめると、次の通りです。
ポイント
- 2019年1月13日 自筆証書遺言の方式緩和
- 2019年7月1日 原則的な施行日(預貯金の仮払い制度、遺留分制度に関する改正、特別寄与料制度など)
- 2020年4月1日 配偶者短期居住権・配偶者居住権
- 2020年7月10日 自筆証書遺言の保管制度
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2018年法改正の施行日まとめは、詳しくはこちらをご覧ください。
平成30年(2018年)7月6日に、相続に関する法律が改正されました。 正式名称は、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」という法律です。 この ...
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改正法の経過措置とは?
一方、「経過措置」とは、法律が変わると施行日の前と後でルールが変わるため、どのような場合に新旧どちらのルールが適用されるかといった内容を定めるものです。
経過措置は、どちらのルールを適用したらよいかが、ただちにはわからないような、施行日前後のできごと(例えば相続法の改正の場合には、死亡と相続発生などの前後)について、その適用関係を明確にしています。
たとえば・・・
上に挙げた「自筆証書遺言の方式緩和」は、手書きで作成する遺言書の一部を、手書きではなくパソコンなどで作れるようにするというものです。この新ルールの「施行日」は2019年1月13日です。
ただし、この新しいルールは、2019年1月12日以前に作成された遺言書には適用されないと定められています。つまり、遺言書を作成した日が施行日より前か後かによって、適用されるルールが変わるのです。
遺言書を作った方(遺言者)が2019年1月13日以降に亡くなったとしても、遺言書を作ったのがたとえば2018年12月であれば、新しいルールは適用されないのです。
このように、法律の新ルール、旧ルールの適用関係を定めたのが「経過措置」です。
経過措置の原則(附則2条)
相続法の新ルールは、原則として、2019年7月1日以降に開始した相続に適用されます。つまり、2019年7月1日以降に亡くなった方の相続には改正後のルールが適用され、2019年6月30日以前に亡くなった方の相続には改正前のルールが適用されます。
被相続人(亡くなった方)の「死亡日」が基準になります。これが原則です。
ただし、上で解説した通り、改正法は、施行日自体が4つに分かれていますので、すべてのルールが「2019年7月1日以降に亡くなったかどうか」で判断できるわけではありません。
そこで、以下では、特別なルールによって決められている相続法2018年改正の経過措置について、改正法の主な項目について、施行日と経過措置を個別に解説します。
配偶者短期居住権の施行日と経過措置
配偶者短期居住権とは、ある人(被相続人)がお亡くなりになった時点で、その配偶者が、亡くなった方の遺産に属する建物に居住している場合に、死亡時から少なくとも6か月間は、その配偶者に、無償でその居住建物を使用する権利を認める制度です。
配偶者の生活を守るために、改正法で、配偶者短期居住権が新しく導入されることになりました。
配偶者短期居住権の制度は、2020年4月1日から施行されます。配偶者短期居住権の経過措置については次のとおりです。
配偶者短期居住権は、2020年4月1日に開始した相続について適用されます。2020年3月31日以前に被相続人が亡くなった場合、その配偶者に配偶者短期居住権は認められません。
配偶者居住権の施行日と経過措置
配偶者居住権とは、ある人(被相続人)が亡くなった時点で、その配偶者が被相続人の遺産に属する建物に居住している場合に、遺産分割や遺言によって、その配偶者に、その建物を無償で使用・収益する権利を認めるものです。
いったん配偶者居住権利が認められると、原則として、配偶者が亡くなるまでの間、この権利は存続します。ただし、一定期間に限定してこの権利を設定することも可能です。
建物の所有権を取得する場合よりも、配偶者居住権を取得する場合の方が、遺産分割の中で、配偶者がその他の生活資金を多く確保できることが期待されるということで、注目されています。
配偶者居住権は、建物を所有している方が、配偶者のために、亡くなる前に遺言で与える(遺贈する)ことも可能です。
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2018年法改正における配偶者居住権の内容は、こちらをご覧ください。
今回は、持ち家の相続に関するお話です。不動産を所有する方の相続では、私たち相続財産を守る会の専門家にも、多くのお悩みが寄せられます。 高齢社会の進展にともなって、夫婦の一方が亡くなったときの、のこされ ...
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配偶者居住権の施行日は、2020年4月1日です。被相続人がこの日以降に亡くなった場合に配偶者居住権のルールが適用され、2020年3月31日以前に被相続人が亡くなった場合、その配偶者に配偶者居住権は認められません。
また、2020年4月1日以降に被相続人が亡くなった場合でも、2020年3月31日以前にされた遺贈によって、配偶者居住権を設定することはできません。配偶者居住権の経過措置に十分注意してください。
したがって、配偶者のために配偶者居住権を設定したいと考えた場合には、2020年4月1日以降に遺言を作成する、あるいは作り直すということを考える必要があります。
居住用不動産の遺贈等についての持戻し免除の意思表示の推定
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産の遺贈または贈与がされた場合には、「持戻し免除の意思表示」があったものと推定され、その分、配偶者の遺産分割における取り分が増加する、というルールが導入されます。
持戻し免除の意思表示推定のルールの施行日は2019年7月1日です。新ルールが適用されるのは、2019年7月1日以降に被相続人が亡くなった場合で、かつ、遺贈や贈与も2019年7月1日以降にされている場合です。
2019年7月1日以降に亡くなった場合でも、遺贈や贈与が2019年6月30日以前に行われている場合は、この新しいルールは適用されません。持戻し免除の意思表示の推定の経過措置は、実務上非常に重要です。
したがって、この新しいルールを活用して配偶者により多くの遺産を与えたいということであれば、2019年7月1日以降に遺言を作ることを考える必要があります。
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2018年法改正による持戻し免除の意思表示推定の内容は、こちらをご覧ください。
2018年法改正で、「持戻し免除の意思表示」について、重要な改正がありました。 この「持戻し免除の意思表示」ですが、一般の方にはなじみの薄い専門用語ですので、今回の解説は、よくあるご相談内容をみながら ...
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預貯金の仮払い制度の施行日と経過措置
被相続人がお亡くなりになった場合には、葬儀費用や、残された家族の生活費など、当面のお金が必要となる場合があります。
しかし、古いルールでは、預貯金口座の名義人がお亡くなりになると、遺産分割協議が終わるまでは、法定相続人全員の同意がない限り、払戻しを受けることはできず、口座は凍結されてしまいます。
遺産分割協議が完了する前でも、法定相続人であれば、金融機関で、被相続人名義になっている預貯金を一定の金額までは払い戻すことができるという制度がはじまります。これを「預貯金の仮払い制度」といいます。
この制度の施行日は2019年7月1日です。2019年6月30日以前にお亡くなりになった方の預貯金についても、2019年7月1日以降であれば、この制度を利用して払戻しを受けられるようになります。
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2018年法改正による預貯金の仮払い制度は、こちらをご覧ください。
2018年(平成30年)7月に、民法の中の相続法に関する部分が改正されました。相続法の改正は、私たちの生活にも重要な影響を与えます。 改正項目の1つに「預貯金の仮払い制度」というものがあります。この記 ...
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自筆証書遺言の方式緩和の施行日と経過措置
自筆証書遺言とは、遺言を作る方が手書きで作成する遺言のことです。自筆証書遺言は、現在のルールでは、すべて手書きで作成しなければ無効となります。ただ、それでは手間が大きすぎるのではないかという意見がありました。
2018年改正法は、自筆証書遺言のうち、財産目録(財産の一覧、リスト)は、手書きしなくともよいこととしました。パソコンで作ったり、不動産の登記事項証明書や預金通帳のコピーを添付することもできるようになります。
「自筆証書遺言の方式緩和」と呼ばれるこの法改正は、2019年1月13日に施行されます。
改正項目の中で、いちばん早く施行されますが、この新しいルールは、2019年1月12日以前に作成された遺言書には適用されません。遺言書を作った方(遺言者)が2019年1月13日以降に亡くなったとしても、遺言書を作ったのがたとえば2018年12月であれば、新しいルールは適用されません。
したがって、遺言書の作成日に注意する必要があります。方式緩和が施行される前後の経過措置にご注意ください。
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2018年法改正による自筆証書遺言の方式緩和は、こちらをご覧ください。
「遺言を作ろう。」と考えている方に朗報です。 2018年7月に、相続分野の法律が改正されました。これによって、2019年からは、遺言が、より簡単に残しやすくなります。 というのも、「遺言」とひとことで ...
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遺言書(自筆証書遺言)の保管制度の施行日と経過措置
今回制定された「法務局における遺言書の保管等に関する法律」にもとづいて、自筆証書遺言の保管制度がはじまります。
手書きの遺言書を法務局で保管し、画像データなどを保存しておくことで、遺言書がなくなったり、改ざんされることを防ぐためのものです。遺言書の保管を希望する方は、法務局にいって、保管の申請をすることになります。
この新しい法律は、2020年7月10日に施行されます。この日よりも前に遺言書の保管を申請することはできません。2018年法改正により導入される遺言書の保管制度には、経過措置はありません。
遺留分減殺請求権に関する改正の施行日と経過措置
亡くなった方の相続人のうち一定の法定相続人に、遺留分(いりゅうぶん)という、遺産の取り分を確保するための権利が認められます。遺留分とは、簡単にいうと、「一定の遺産をもらうことができる権利」です。
この遺留分が侵害された場合、つまり、最低限の遺産すらもらえなかった場合には、配偶者や子どもは、遺産を受け取った人に対して、取り分を自分にも渡すように請求することができます。
この権利の内容が、現在のルールと改正法のルールとで変わることになります。権利の名前も、今の「遺留分減殺(げんさい)請求権」という名前から、「遺留分侵害額請求権」という名前にあらためられます。
この遺留分に関する2018年法改正の施行日は2019年7月1日です。この日以降に亡くなった方の相続について、新しいルールが適用されることになります。
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2018年法改正による遺留分侵害額請求権の内容は、こちらをご覧ください。
相続問題が発生し、相続人間でトラブルになると、「もらえるはずの遺産がもらえなかった・・・。」という問題が発生します。 「もらえるはずの遺産」のことを「法定相続分」といいます。「民法」という法律に定めら ...
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特別寄与料制度の施行日と経過措置
相続人以外の被相続人の親族が、無償で、亡くなった方の介護などを行っていた場合に、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭を請求することができるようになります。このお金が「特別寄与料(とくべつきよりょう)」とです。
この制度も、施行日は2019年7月1日です。この日以降に亡くなった方の相続について、新しいルールが適用されることになります。
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2018年法改正による特別寄与料は、こちらをご覧ください。
民法において「相続人」と定められている人が、家族の面倒をまったく見ず、むしろ、「相続人」以外の人が、介護などすべての世話をしているというケースは少なくありません。 相続人ではないけれども、介護など一切 ...
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いかがでしたか?
今回は、2018年に行われた相続法の改正について、改正日・施行日と合わせて理解しておいていたいだきたい「経過措置」について、相続に詳しい弁護士が解説しました。
法改正というと、改正日・施行日がとりあげられがちですが、実務上、改正された新しいルールを活用するためには、経過措置の理解が必須となります。特に、施行日の直前、直後に相続が開始されたり、制度を利用したりしたいときには十分注意が必要です。
新しいルールの適用される日を正しく理解して、改正法の内容を活用しましょう。
「相続財産を守る会」では、相続に詳しい弁護士が中心となって、2018年に行われた法改正をはじめ、新しい相続法に対応した有利かつ適切な相続をサポートします。